僕たち夫婦が初めてヨットに乗せて頂いたとき、僕自身が知っているヨットのイメージでは、セイルは付け外しして、出港前にセイルを上げる準備作業があるものだとばかり思っていました。しかし、案内されたヨットを見ると、ヘッドセイルはフォアステーに巻き付いているし、メインセイルはどうやらマストの中に収納されているようで、端っこがちょびっと顔を見せているではありませんか、それを引っ張り出すだけでセイルが展開できると言う、なんともヨットとしてのセイルを上げる儀式みたいなものが無くなってしまい簡略化された感じで、最新のヨットって言うのは楽な仕組みなっているんだと感心半分、残念半分な気持ちだったのを今でも覚えています。
しかし、確かにヨットハーバーに係留されている他のヨットを見回してみると、ヘッドセイルは巻き付け式になっていて、僕の知っているヨットのイメージは、今や昔の話で、これがスタンダードなんだって思い知らされたわけです。
我家のMALU号はと言えば、ヘッドセイルは巻き取り式ですが、メインセイルは上げ下げ式です。まあ、古いデザインのヨットだと言うのもありますが、僕たち夫婦としては、今のスタイルの方が何かと便利というか、シンプルでいいなって思っています。

そこで今回は、セイルのファーリングについて、お話をしてみたいと思います。

ファーリングとは?

先ずは、ファーリングとは何かという基礎的なお話からです。
「ファーリング」”Furling” は、「巻き上げる」とか「畳む」という意味の言葉です。つまり、ヨットの場合には、ヨットのセイル(帆)を「巻き上げる」又は「折り畳む」ことを指します。

元々、ヨットのセイルは、冒頭にも触れましたが、ヘッドセイルもメインセイルもセイルは取り外してバッグに収納してキャビンに入れていました。勿論、セーリングするために出港する際には、バッグから取り出して、セイルを上げる準備を行って、海上に出たらセイルを上げるということをしていたわけです。今でもレース艇などは、セイルを付けっ放しにしておいては高級なレース用セイルが痛んでしまうので、セーリングを終えたら外して綺麗に折り畳んでキャビンに収納しています。
では、セーリングクルーザーは外さなくて良いのか?という話になりますが、外す代わりにセイルが痛まないように収納できるシステムになっています。これを「ファーリングシステム」と呼びます。

では、どんなファーリングシステムがあるのか、ご説明してゆきたいと思います。

ヘッドセイル用のファーリングシステム

ヘッドセイルはマストの前側のフォアステーに付けるセイル(帆)のことです。
ヘッドセイルはフォアステーにハンクスで留めてヘッドセイル用のハリヤードでセイルを上げるのが基本的な仕組みですが、ファーリングシステムを使うと、帆をいちいち収納する必要が無くなり便利なことから、今ではセーリングクルーザーのスタンダードな装備となっています。
ヘッドセイル用のファーリングシステムは、フォアステーの代わりにローラーファーリングシステム(巻き取りシステム)を取り付けて、ちょうどフォアステーを芯にした巨大なヘッドセイル巻き取り装置を取り付けるという形です。ヘッドセイルのラフをこの巻き取り装置に取り付けて巻き取り棒を回転させることでフォアステーの周りにヘッドセイルが巻き取られてゆくと言うような仕組みになっています。
ヘッドセイルファーラーは、フォアステーの役割もしていますので、巻き取った状態でセイルを外すことはできませんが、展開した状態であればセイルを簡単に差し替えることもできます。
よくあるのが、普段のセーリングではセーリング用のセイルを付けていて、レースの前に高性能なレース用セイルに付けかえるというような使い方をしている人もいます。また、ヘッドセイルファーラーシステムはセイルの大きさを巻き取る量で調節することができるので、風に合わせてヘッドセイルを付け替える手間が無くなるため、リーフの作業がとても簡単に出来ることから、今では殆どのセーリングクルーザーがヘッドセイルファーラーシステムをつけているわけです。

ヘッドセイルを紫外線から守る縁取り


この写真のように、ヘッドセイルのリーチとフットには「青い縁取り」がされています。これはセイルの柄というわけではなく、セイルを巻き取った状態で長時間の紫外線によるセイルの劣化を防ぐためにセイルを巻き取った時にこの青い部分だけが外になるようにつけられています。青い部分は紫外線に強い素材がセイルに縫い付けてあります。

ジブファーラー
ちょっと写真が遠いですが、ヘッドセイルを巻き取った状態ですが、白くないと思います。これが巻き取った状態で青い棒のようになることで、紫外線からの劣化を避けるようにしているわけです。

ホイストカバー

これはセーリング用品専門店の「ゆうこうマリン」という会社が出しているオリジナル品ですが、ヘッドセイルを巻き取った上からカバーをつけるという物です。

ホイストカバー(ゆうこうマリン)
この製品の良いところは、先ず第1に、セイルに青い縁取りをしなくても良いということです。真っ白なセイルに出来るということ。2つ目は台風などでヘッドセイルが開いてしまい、ヘッドセイルに被害を受けることを防ぐことができるということです。

メインセイル用のファーリングシステム

メインセイルはマストに付いているセイルのことですが、ファーリングシステムは大まかに3つあります。
1. レイジージャックという通常のハリヤードで引き上げる形のメインセイルをブーム上で受け止める仕組み
2. マストファーリングシステムという、マストの中にセイルを巻き取り収納する仕組み
3. ブームファーリングシステムという、ブームで巻き取り収納する仕組み

レイジージャックとスタックバッグ

レイジージャック
レイジージャックは元々はブームの上からセイルがずり落ちることなく、セイルを外して収納するまでの間、仮にブームの上に置いておくためのものでしたが、今ではレージ―ジャックにセイルをそのままブーム上で収納できるスタックカバーと組み合わせることによって、セイルの収納システムとなっています。

スタックカバー

マストファーリングシステム

メインセイルをマストの中に巻き取る仕組みです。このシステムは、ヘッドセイルファーラー同様にメインセイルを上げるというより引き出す形になります。

マストファーリングシステム
メインセイルをリーフする際には、セイルを巻き取ることでセイルエリアを小さくすることが出来ます。しかし、メインセイルを縦に巻き取るということは、バテンを入れることが出来なくなります。
マストファーラーは、細いマストの中に筒状にセイルと巻き取って収納するので、セイルが伸びてきたりするとセイルが綺麗に巻き取れなくなり、スムーズに出し入れ出来なくなることがあります。また、セイルがスムーズに巻き取れないとリーフもスムーズにできなくなり、緊急時にセイルを落とすことが難しいシステムではあります。

ブームファーリングシステム

メインセイルをブームの中に巻き取るシステムです。形としてはレイジージャックとスタックバッグを組み合わせたものと同じような感じですが、ブームの中で巻き取るので、セイルをいちいち捌く必要が無くなります

ブームファーリングシステム
。マストファーラーのデメリットだったバテンもブームに巻き取る形だとフルバテンでも対応が可能になります。また、マストファーラーの弱点だった緊急時のセイルダウンも巻き取りなしに通常のセイルと同じように落とすことも可能ですので、メインセイルのファーリングシステムとしてはとても理想的なシステムです。

最後に… アメリカズカップ艇はファーリングできない

いろいろなファーリングシステムをご紹介しましたが、僕の経験ではマストファーラーはあまりオススメでは無いです。セイルがジャムってしまう(詰まって動かなくなる)とセイルを落とすこともできなくなります。アウトホールを外してシバーを防ぐためにスピンハリヤードでセイルをマストに抑え込む程度しか対応方法が無く、これが急に風が上がってきた海上で、それもシングルハンドなんてことを想像したら、ちょっと怖くなります。これを防ぐためには、トラブルが起きる前、つまりセイルが引っ掛かり始めたらセイルを新調して大事故になる前に交換をしてゆくしかありません。しかし、破れてもいないセイルを交換なんて、なかなかできませんよね。
セイルは多少の伸びようが、形が変形しようが、セイルが破れて補修が不可能になるまで使えなくはない、そう考えるとトラブルが出てくるマストファーラーよりも従来型のレイジージャックにスタックバッグの組み合わせが最もトラブルなく使えるということになります。ファーリングシステムは、面倒を無くしたいということから開発された仕組みですが、使い方やトラブルの可能性を十分に熟知しておく必要があるということです。

アメリカズカップ艇
ところで、メインセイルがウイングリジットセイルのアメリカズカップ艇は、ハードセイル(硬帆)ということもあってファーリングができません。では、海に出ていないときは一体どうしているんだろうって不思議に思っていたのですが、答えは非常に大胆でした。セイルをマストごと毎回レースが終わると抜いてしまうそうです…。
マストごと抜いて倒してしまうなんて究極のファーリングですね。

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“ヨットのセイルをファーリングするって解りますか?” への1件のコメント

  1. ジブのUVクロスを取るメリットは軽い風に対応しやすくなるところも大きいですね。

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