2020年春は世界的なコロナ禍の中、世界中のセーラーがロックダウンや自粛となり、セーリング界も鬱々とした雰囲気の中、良い話題は殆どありませんでしたが、ようやく6月に入り、新たなニュースが飛び込んできました。2020年に入って最大のセーリングヨットの「SEA EAGLE II」のローンチです。

SEA EAGLE 2

このスーパーヨットは、2016年にモナコヨットショーで計画が発表され、”PROJECT 400″というプロジェクトネームでスタート、2017年中にはオーナーとの詳細な打ち合わせのうえで設計が行われ2018年に建造がスタート、今年(2020年)1月には船体部分の製作が完了したことから進水し、マストなどの艤装を行った後にテスト航海等が行われ、この春にはオーナーに引き渡される予定でした。しかし、コロナ禍のインテリジェントロックダウンによる影響でシェイクダウンを残すのみとなった状況で作業を中断、5月頃よりシェイクダウンを再開し、良い結果が得られたとのことから7月にはオーナーに引き渡される予定となっているそうです。

今回は、この世界最大のアルミ製セーリングヨット “SEA EAGLE II” について書いてみたいと思います。

世界最大のアルミハル

“SEA EAGLE II” には、多くのトピックがあります。その1つ目が、世界最大のアルミ製のハルです。
造船はオランダのスーパーヨットビルダーである Royal Huisman によるもので、このスーパーヨット建造のために工場の一部を改築し対応する必要がありました。ハルの全長は81メートルで、同造船所最大のプロジェクトです。

SEA EAGLE II

巨大な一体のハルを工場から引き出してクレーン4台で裏返す技は見事ですが、朝から夜遅くまでの1日仕事です。その作業の大変さを短い動画から伺い知ることが出来ます。

3マスト・パナマックス・スクーナー

“SEA EAGLE II” は、その大きさから世界最大級のセーリングヨットベスト10に入るスーパヨットになりますが、3マスト・パナマックス・スクーナー “3-masted Panamax schooner” と呼ばれるリグで、その高さは62メートルに抑えられています。このパナマックス “Panamax” とは、パナマ運河を通行できる最大サイズのことを指し、”SEA EAGLE II” の場合、高さがパナマ運河の河口に掛かるアメリカ橋の下を通れる最大高に設定されていることから「パナマックス」と呼んでいます。
このスーパーヨットのオーナーが台湾の大富豪だということもあり、大西洋からさらに太平洋を横断する必要があることから、世界の海を自由に航行するためにはパナマックスは必然だったわけです。

“SEA EAGLE II” の3本のマストはカーボンコンポジットの一体成型で継ぎ目が無く、わずかに弧を描いた弓形のマスト形状となっています。また、3本のマストの長さは全て同じで、メインセイルの大きさも同じ、パナマックスとして最大のセイルエリアを得ることが出来るようにデザインされており、総セイル面積は3500平方メートルです。(3本のマストの前にステイスルを付けたとき)

セーリングスピードは21ノット

“SEA EAGLE II” のオーナーは、その船名の「ll」が示す通り、2015年に同造船所で製作した “SEA EAGLE I” に次ぐ2艇目のスーパーヨットになります。“SEA EAGLE I” は全長43メートルのスループ型で、スーパーヨットレガッタにも参加できるレースヨットとしてもデザインされているスーパーヨットです。(現在、売りに出されています。)

SEA EAGLE !

“SEA EAGLE II” はおよそ2倍の長さ、総重量では5倍にもなるスーパーヨットですが、そのテイストは「l」と同じで単なる豪華クルーザーと言うだけでなく、パフーマンスにも拘った設計となっており、テスト航海では16ノットの風で17~18ノットのスピードでセーリングしたとのことで、風の条件が整えば最大速度は21ノットに達する能力を持っているとのことです。

SEA EAGLE II

大きさとパフォーマンスの矛盾を両立させる

81メートル、パナマックス、セーリングスピード20ノット超を実現するためには従来型の造船法では実現は難しく、本来このサイズの船になると船体の剛性をもたせるための素材は鋼鉄製、マストはアルミと炭素繊維の複合素材、鋼鉄のラダーは6メートルの長さで3トンにもなってしまうなど、剛性を保つためには重たくならざるを得ませんが、”SEA EAGLE II” では、大型船では非常に難しいとされるハルのフルアルミ構造化、マストのカーボンコンポジット化、フルカーボン製のラダー、そしてレース艇などで採用される丸いビルジ形状など、軽量化とパフォーマンス、重量バランスを意識した設計により、全長81メートル、ビーム12メートルというサイズで総重量は1150G/T(排水量980トン)に抑えられています。

SEA EAGLE IISEA EAGLE II ラダー

アルミ構造のハルにすることによって、荷重が掛かることで僅かにデッキなどが曲がります。そうするとデッキ上部のコーチルーフやキャビンの窓ガラスになどに大きなストレスが集中してしまうことから、デッキ上の構造物の屋根を溶接することなく接着することで力を逃がすというフレキシブルジョイントという新たな技術が用いられています。

SEA EAGLE II

最後に…  “Sea Eagle II Specifications”

Name: Sea Eagle II
Shipyard: Royal Huisman
Naval architect: Dykstra Naval Architects
Interior design: Mark Whiteley Design
Rigging: Rondal
guests: 12
crew: 13
Length: 81.0m (265’9″)
Beam: 12.0m (39’4″)
Draught max: 6.0m (19’8″)
Gross tonnage: 1150
Full load displacement: 980
Max. speed: 21.0 kn
Sail area: 3500 ㎡
Owner: Samuel Yin

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