MALU号に乗り始めて7年、その間に同じ桟橋を使うお隣さんは4艇も入れ替わり、他の皆さんは西風で波が打ち込まない位置にバースを移動されたり、陸に近いバースに移られてゆきました。僕たちも、そろそろ移動を願い出ても良いかなって感じで移動をマリーナにお願いしてみましたが残念ながら時既に遅しといった感じで昨今のボートブームで空きバースが極端に少なくなり、我がMALU号を入れることができる適当なサイズの移動先が無く、今年も同じ位置のままで更新料を支払いました。そう、マリーナの中では、ちょっと不便で環境条件も良くないバースなんだけど、浮き桟橋のサイズが大きくて長いと言うことで、35フィートオーバー、40フィート未満の船を置くことができる場所というのが限られているようです。しかし、陸から遠いということは、他の船も目に入るし、桟橋を歩いていればいろんな気付きもあるわけです。その1つがドックライン(係留索:以下ライン)の取り方です。実は私もラインの取り方が良くなったことで、台風直撃で船を壊しそうになったことが実際にあったります。そして、また次にデカい台風が直撃したら、この船は壊れるなぁとか、普段でも風が強い時だと桟橋を歩いているときに気を付けないとこの船にぶつかって怪我するなって感じることがあります。そんなことを思っているうちに、これってドックラインの正しい取り方を知らない人がいるんだってことに気付いたわけです。それも特にスプリングラインの意味が解っていない人が意外に多いんじゃないかなと感じたので、台風で船を壊しそうになった経験者として、ドックライン(中でもスプリングラインの重要性)について今回は書いておきたいと思います。

1. 船は桟橋から離して係留する

実は、係留すると言っても、人が船に居る時(船に遊びに行って滞在している時)と 居ないとき(家に帰ってしまっている時)では、係留索の取り方が異なります。
それってどういうことかというと、船を使う時には桟橋に船を寄せて乗り降りし易くします。つまり、大体の場合、スターンラインを引き込んで船を桟橋に寄せます。その逆に、家に帰ってしまう時には、船はバース海面の自分の枠の中央部で周囲の桟橋や隣の船とも適当な間隔を持たせます。
船を使う時、船に滞在している時には、頻繁に乗り降りしますから、船と桟橋の間が空いていると、海に落ちかねないし何かと不便ですから、桟橋に寄せたいってことは想像がつくと思いますが、帰る時には船を離しておいた方が良いって言うのは、ちょっと意味が解らない人もいらっしゃるかもしれません。逆に桟橋にしっかり縛り付けておいた方がいいんじゃないの?って思われそうですが、実はそれは大きな間違いで、船はできるだけ桟橋から離しておいた方が良いのです。

2. 何故桟橋から離すべきなのか

桟橋から離すと言っても、バースからはみ出すような係留方法は、他の利用者の邪魔や船の通路障害にもなりますから、そこは「適当な」という言い回しになりますが、桟橋に寄せておくと船が壊れる心配があるのです。
船が壊れる理由は、波が来た時に桟橋の揺れと船の揺れが異なることから、桟橋に船が当たってしまうことがあるのです。たまに桟橋の近くを減速せずに大きなパワーボートなどが通過すると大きな引き波が来たりします。そうすると、桟橋は浮桟橋でも全体がつながっているので緩やかに波に対して上下するのですが、係留している船は自船の重さだけなので大きく上下するのです。この互いの上下する動作の違いで船と桟橋がフェンダーの無い部分でぶつかる可能性があるのです。(実際にぶつかります)
なので、桟橋の上下動と船の上下動の違いがあっても、桟橋と船が直接ぶつからないようにしておく必要があり、それが船を桟橋から離しておくべきだという最大の理由です。
この事例で壊す可能性が多いのが、櫛型桟橋にバウから入れている船の舳先が桟橋に重なるように掛かっているときに、バウが桟橋に打ち付けられてしまうのです。ひどい場合には、バウの部分が桟橋に刺さってしまいハルに穴が開いてしまったり、バウスプリットやバウポール、アンカーなどが桟橋にぶつかって船の船首部分を損傷する可能性があるのです。
これが、スターン着けの時には、スターンが桟橋の下に潜り込んでしまったりすることもあります。
ですから、船の横だけでなく前後も桟橋から適度に離しておかないと痛い目にあうことになります。
特にバウのオーバーハングが大きな船は、どうしても通路にバウが掛かりがちですが、船首は必ず水面になるようにしておくべきで桟橋に掛かっていると、ぶつかる可能性があるので、船を壊すことになります。

3. バウのオーバーハングで人が怪我をする

ちょっと係留の話ではないのですが、船のオーバーハングを桟橋にはみ出させると、桟橋を歩いている人がぶつかる危険性があります。天気が良くて波が無い時なら、桟橋を歩いている人も避けて歩いてくれますが、風が強かったり、雨が降っていたり、先に書いたような大きなボートが大きな引き波を立てて行ったときなどは、船も桟橋も大きく上下するので、そんな時にはフラついてぶつかって事故になります。特にアンカーなどが突き出していると怪我する原因にもなります。また、穏やかな時でも、子供が桟橋を歩いているだけで、自分の目線より上に船が突き出していたりすると頭をぶつけたりするわけです。
ですから、桟橋には船が掛からないようにしておくことです。、自分が船に居ないときに自分の船が原因で桟橋上で事故が起きるということなってしまう可能性もあるわけです。船が壊れるのも嫌ですが、人が自分の船が原因で怪我してしまうなんてもっと嫌なことですよね。

4. スプリングラインはボヨーンボヨーン

さて、今回の本題であるスプリングの話ですが、船を桟橋に係留するときには、バウとスターンから舫を掛けて、その後にスプリングを掛けるというのは、殆どのヨットマンなら係留の基本として知っていると思いますが、何故スプリングを掛けるのかをきちんと理解してスプリングを掛けている人は意外に少ないように感じます。わかっていたら、そんな掛け方しないからです。
スプリングは英語では”spring”と書きます。そうです、あのボヨーンボヨーンのスプリングのことです。
読んで字の如くという感じで、スプリングは船の位置をいい感じで維持するために取り付ける係留索で、がっちりガチガチに位置を決めるものではありません。
つまり、船の係留はある程度の遊びが必要なのです。しかし、大きく動き回ってはいけないのでボヨーンボヨーンなわけです。
これも先に書いたように、係留している船の動きと桟橋の動きが異なることから、ガチガチに係留してしまうと、船や桟橋が壊れてしまうことがあるからです。なので、動きの差を吸収しながら船をいい感じの位置に留めておくためにスプリングが必要なわけです。
なので、スプリングは前から後ろ、後ろから前に斜め掛けするのはスプリング(ボヨーンボヨーン)効果を出すためなのです。
参考までに大型船(貨物船や客船)は、ブレストラインという真横に係留索を出して船が岸壁から離れないようにするという係留索を取ります。僕たち小型船ではやらないのですが、大型船の場合にもスプリングは取るのですがボヨーンボヨーンでは危険なのと、風を受けたときに物凄く大きな力が船体に掛かりバウラインやスプリングラインだけでは船が動いてしまうことから、がっちり岸壁に船を寄せておくためにブレストを取ります。ボヨーンボヨーンでは、荷役の際に危険だからですね。

スプリングライン
スプリングライン

5. スプリングラインの最も大きな役割

船を係留しておくときに、最も大切なことは、船を壊さない、他に迷惑を掛けないように停めておくことです。船を壊さないため、そして周りに迷惑を掛けないようにするためには、船はバースの中央に振れ回ることなく係留されていることが理想です。この振れ回ることが無いようにするために、スプリングラインが必要なのです。バウラインとスターンラインだけでは、船を安定した状態で留めておくことは難しいです。言い換えると、バウとスターンだけだと、それぞれのラインをギチギチに引いておく必要があります。しかしそれでは船が桟橋に寄せられて縛り付けられてしまうために、浮桟橋と船との動きの違いで船や桟橋を壊してしまうことがあるのです。両舷(船の左右面)にはフェンダーを吊るしますが、波が大きいとフェンダーが利かなくなることがあるからです。船を桟橋から適度に離し、そして船が振れ回らないようにするためには、スプリングラインが必要なのです。
前の項目でボヨーンボヨーンと書きましたが、これは、船や桟橋の動きに対して、スプリングラインが適度な間隔を保つ様子がボヨーンボヨーンなのです。しかし、スプリングがあることで、船は適度に問題が起きない位置をキープですることができるという役割があるわけです。
特にバウやスターンと桟橋の間隔を保つためには、きちんとスプリングラインを引き込んで利かせておく必要があるということです。

6. スプリングラインの効果

係留索は、バウとスターンだけではダメ、スプリングだけでもダメです。係留索をきちんと機能させるためには、バウライン、スターンライン、バウスプリング、スターンスプリングの最低4本は必ず掛けておかないと、船を適切な位置に係留しておくことができません。更に言うと、船の大きさによって、スプリングの掛け方を工夫すると、更に船を安定した位置に係留できます。
スプリングラインが長過ぎるとロープは延びるので風が強い時などは船が想定外の位置まで動かされてしまいます。これはロープは長ければ長いほど、延びる量が大きくなるので船は大きく動いてしまいます。ですから、船の大きさに対して適切にスプリングの掛け方を工夫した方が良いです。
私の船は古いのでバウとスターンにしかクリート無く、桟橋の長さも船の長さ+αくらいしかありません。そして、船をバウから櫛型桟橋に停めた場合には、スターンラインは殆ど後ろ側から引くことができません。つまり、スターン側から強風が吹いた場合に、船が前に進もうとする力を食い止めるのは、バウスプリング1本だけということなってしまいます。このバウスプリングを掛ける桟橋側のクリートが後ろまでないとバウクリートは船の長さ以上に長いロープとなり、風で押されたときにロープが伸びるとバウが前側の桟橋に近付き過ぎてしまいます。そんなときには、できれば桟橋に船の長さの中央あたりにクリートを増設すれば、ロープは半分の長さで済みます。更に、バウ寄りとスターン寄りに桟橋に4つのクリートを設けることができれば、更にバウスプリングを短くすることもできます。船の長さが長くて大きな船は、風の影響を大きく受けるので、船の大きさに応じてクリートの位置やスプリングの数を増やすなどの工夫をすると、船を安定させることができます。
また、スプリングは斜めに掛けたロープですので、桟橋側から風が吹いた時には船が桟橋から離れようとします。これも船体が大きな船の場合には、かなり大きな力が掛かるので、短いスパンでライン取りすることで船の位置を安定させることができます。しかし、先の項目で書いた、ブレストラインのような係留索の取り方はヨットには向きません。極端に短い係留索は、やはり浮桟橋の動きと船の動きの違いでは動きを吸収することができずに船や桟橋を壊してしまう可能性があるからです。ですから、スプリングをきちんと取ることで船や桟橋を壊さず船を安定した状態で係留するという効果があるわけです。

最後に… 適切な係留索の掛け方

いろんなヨット教本に係留索の掛け方が出ていますが、実は適切な掛け方を詳しく書いている物は、私は読んだことがありません。なので、私も周囲の先輩セーラーの船の係留の様子を見て試行錯誤で今の形になったわけで、実は最初の頃は適切な掛け方をわかっていたわけではありません。その証拠に、マリーナが台風直撃でデスマストしたヨットや桟橋が沈むという被害が出たときがありましたが、MALU号もバウを桟橋に打ち付けるということで、バウ部分に傷がついてしまったという苦い経験があります。たまたまバウ側には桟橋に取り付けるタイプのフェンダーを付けていたので船の破損までは免れましたが、船のバウ側を充分に離しておくことなく、そしてスプリングの掛け方が良くなかったこともあり、船が前方向に台風で寄せられ、そこに風波で船と浮桟橋が上下動のペースが異なってバウが桟橋に何度も打ち付けられてしまったわけです。マリーナのスタッフの方が、船を押し戻して舫を掛けなおそうとしてくださったそうですが、残念ながら人力では無理。その時に舫は50センチ以上引き伸ばされていたそうです。台風明けに船に行ってみたら、桟橋に取り付けたフェンダーは破れて中が見えており、バウには傷が入っていましたが、ハルが割れるということまではありませんでした。たまたまフェンダーがあったお陰で大惨事はなんとか避けることができました。

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その出来事以降、船がスターン側から風で前に押し出されることが無いように、バウスプリングの掛け方を変える工夫を何度も試行錯誤でしました。
我がMALU号は7トンもありますから、しっかりした舫用に太めのロープを使うことは言うまでもありませんが、前向きの風に耐えられるように、前から後ろ向きのスプリングが2本になるようにしました。更に、ワンラインドッキング時に使うロープも含めると、3本の舫綱がスプリングとして機能するようにしました。
ドックライン(係留索)の掛け方のポイントは、長過ぎてもダメ短か過ぎてもダメ。同様に、緩過ぎてもダメきつく引き過ぎてもダメです。これを言い換えると、船がガチガチに縛り付けられているのではなく、適度に桟橋から離れて安定している状態で係留するのがベストな状態ということになります。もちろん、バウのオーバーハングやバウスプリットやポール、アンカーのはみ出しは絶対厳禁です。そして、ロープの伸びなどを考慮して、船を後ろに下げて係留するようにすると、係留中に船を壊す心配は大きく防ぐことができると言えます。
そして、最近気になったのが、高性能ロープ(伸縮率が極端に小さく高強度なロープ)をドックラインに使っている船がたまに見られます。これもドックラインには向きません。船が壊れる原因です。見ていないときに船は想像以上にバース内で揺れ動いています。悪天候の時や周囲を通る引き波などで船が大きく揺り動かされる時があります。高強度ロープは、こういった動きを吸収することができません。まさに文中にあるボヨーンボヨーン効果が損なわれるのです。ですから、ドックラインにはドックライン専用のロープを使用することをお勧めします。また、必要以上に太い、細いというのも、きちんと機能しません。最近のロープは高性能になっていますので、メーカーが推奨する船の大きさや重さに適したロープを使うようにすると良いです。是非、皆さんの船もドックラインを再点検してみることをお勧めします。
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