近年のセーリングボートの高速化は目を見張るものがあります。その中でも最も有名なのが、アメリカズカップで使われたフォイリング艇の出現です。僕の年代だと「それって水中翼船ね」って感じで、福岡と韓国の釜山の間を航行している「BEETLE」(JR九州)なんかがパッと頭の中に浮かんだりしたわけですが、
BEETLEは、ジェットフォイル船でエンジンはジェット旅客機のエンジンと同じボーイングのジェットエンジンで動く船なので、なんとなく無理矢理推進力で浮きあがってきそうな感じがしますよね。でも、風の力だけで走るヨットが浮きあがって、ヨットでは考えられないようなとんでもないスピードで走るというアメリカズカップのフォイリング艇が出現して、最高時速80km/h以上(≒43ノット)で帆走できると聞いた時には正直驚きでした。だって僕たちセーリングクルーザーは、いくら頑張っても8ノット前後ですからね…。
カタマランタイプのフォイル艇は、前回のアメリカズカップで終了になったことから、その艇を使って海のF1サーカス化した”SailGP”がその後を継いで昨年から始まりました。アメリカズカップ艇をブラッシュアップしたSailGP専用艇は、更にスピードアップして、その速さはなんと50ノット超えと言いますから、時速90キロオーバーと何処までスピードアップするんだろうって感じです。
しかし、上には上があるもんで、もっと速いセーリングボートがあるということで、
今回はその世界最速記録を保持するセーリングボートをご紹介したいと思います。
セイルロケットという名前のセイルボート
セイルロケットと言う名前自体、もう飛んで行ってしまいそうな名前ですが、その姿を見るとこれがセーリングボートなのか、どういう仕組みで走るのか、一目では理解できないデザインです。
しかし、セイルロケット(正しくは、Vestas Sailrocket2)は現代のフォイリング技術の限界と言われる50ノットの壁を軽く超え、2012年にフォイリング艇として世界最速の65.45ノット(≒121.2km/h)を記録しています。
セーリングボートの50ノットの壁
物体の周囲に50ノット以上の水が通過し始めると、キャビテーションと呼ばれる現象が始まります。これは「サウンドバリア(音速の壁)」と同じような流体力学に例えることができます。
50ノットを超えるスピードになると、フォイルの特定の部分で水が液体から蒸気に変化し始め、水の性質が変化し壁となります。また、水の表面からの空気もフォイルに吸い込まれる形となり、フォイルのグリップが失われるため、問題はさらに複雑になるわけです。それらを解決するために、翼断面の形や材質、表面の平滑さなどが研究され、この現象を克服し、帆を動力とするボートが従来の限界をはるかに超える可能性があることを証明するために、根本的な新しいフォイル形状をテストする能力を持つように開発されました。この記録は2012年に記録されていますが、未だ破られていません。
最速記録にはルールが存在する
Sailrocket2 の出した最速記録は、イギリスの WSSRC(World Sailing Speed Record Council:世界セーリング速度記録評議会)の”The Course of 500m”のルールに則った形で記録認定されています。
ルールでは、推進力は風のみで、自力で操船し、停止状態でもクルーを乗せた状態で自ら水面に浮いていることができ、風の力だけで走りだすことができ、停止することもでき、最低でも500m以上帆走しなくてはならないというのが概略で、その他にも、計測場所や計測の方法など、細かなルールが設定されています。記録は500mの区間での平均速度になることから、Sailrocket2 の実際のトップスピードは更に速く、68.33ノットにも上ったそうです。
最後に… WSSRC外洋世界最速記録
WSSRCの最速記録には、様々なカテゴリ―があり、Sailrocket2 はセーリングボートの中で世界最速の記録となります。しかし、この記録はインショア500mの区間であり、外洋(オフショア)での記録ではありません。
WSSRCの最速記録では、World Passage Records(長距離での最速記録)も多数登録されており、外洋での最速記録を見てみると、
オフショアヨットでの現在最速記録の保持者は、フランスのトリマランレーサーである”Banque Populaire5″で、2009年8月2日に北大西洋(ニューヨークシティ~リザードポイント間)を3日15時間25分48秒で2921マイル(≒5410 km)で平均速度33.41ノットという記録ですが、WSSRCの公式認定記録は、2880マイルを3日15時間25分48秒で平均速度32.94ノットと記録されています。
この記録は、ヨットでの大西洋横断の最速記録でもあります。
アメリカズカップやSailGP、そして今回ご紹介した Sailrocket2 は何れもインショアでの高速セイルボートですから、日本でいうところの平水区域的な場所での記録と言うことなります。今後、この50ノット超え記録がオフショアでも出せるようにSailrocketのプロジェクトは新たなフェースに入って行くとのことですが、その時にはどんな姿のセイルボートになるのか、今から楽しみですね。
タグ : セイリング, セイルロケット, セーリング, ヨット, ヨットが好きな人とつながりたい, ヨットのある暮らし, ヨットの楽しみ方, ヨットを楽しむ, 世界最速のセーリングボート, 世界最速セーリングボート