僕はヨットを始める以前はスキューバーダイビングを10年以上やっていました。ダイビングもヨット同様に自然を相手にする遊びなので、気象情報は潜水計画を立てるうえでとても重要なものでした。ヨットをやり始めた時にも、海に出る準備として気象情報は数日前から必ず見て出掛けるのはあたりまえのようにやっていましたが、ダイビングの時とはちょっと感じが違いました。それは、ダイビングは沖合で潜るという事は殆どなく、大抵が海岸の近くだったので、波については現場で打ち寄せる波が高ければエントリーやエキジットに気をつけるか、大きすぎればダイビングを中止、ポイント(場所)を変えるというような判断をしていました。しかし、ヨットは港から沖合に出てゆくので、波と言っても行く先々で波の様子が変わり、気象情報の波高と実際が大きく違っていたりで、最初の頃は海に出てとても戸惑いました。

そこで、今回はヨットを乗るうえで知っておきたい基礎知識として「波とうねり」についてお話したいと思います。

波のメカニズム

海で風が吹くと海面に波が立ち始めます。この波は風の吹く方向に進んで行きますが、波が進む速さ(波速)より風の速さが早ければ、波は風に押されて更に発達してゆきます。この海上で吹く風によって起きる波を「風浪」と言います。風浪は発達段階での波にみられるもので、波の形は不規則に尖っていて、強風時には白波が立ちます。
発達した波は波高(波の高さ)が高く、波の周期(波の一番高いところから次の波の一番高いところまでの時間)と波長(波と波の間隔)も長くなり、波速も早くなります。
風浪は波速が風速と同じになるまで理論的には発達が続くことになりますが、強風の場合には波が風で砕けてしまい発達が止まります。

風により尖った不規則な波を「風浪」、その風浪が風で砕けた波を「白波」と言います。

「うねり」とは?

風浪が風の無いエリアまで進んだり、風が弱くなったり、風向きが変化することで、風による波の発達が無くなった後に残る波のことを「うねり」と言います。
うねりは元あった波が減少しながら伝わる波で、同じ波高の風浪と比較した場合、波の形は規則的で丸みを帯びています。波の峰も横に長く連なり、ゆったり穏やかに見えることもありますが、うねりは風浪に比べて波長や周期が長いので、水深が浅くなる海岸付近では海底の影響を受けて波が高くなりやすい性質があります。これを浅水変形と言います。

風による発達が無くなり残った、丸みを帯びた規則的な波を「うねり」と言います。

「土用波」とは?

日本から数千キロ離れた南洋上で発生した台風が起こした波が日本沿岸まで伝わってきたうねりのことを「土用波」と言います。
土用波は波速が非常に早く、時速50km/h以上になることもあり、日本の南側にある台風が太平洋高気圧に阻まれ、ゆっくり北上した場合、うねりが台風よりも数日早く日本沿岸に到達することもあります。

「波浪」とは?

海の波は風浪とうねりが混在しているので、それらをまとめて「波浪」と呼びます。

気象情報の波の表示は「有義波」

海上で見る実際の波は波高や周期が均一ではありません。そんな複雑な波の状態を気象情報ではわかり易く表示するために統計量を用いています。
連続して観測する波の1つ1つを観測した時、観測した情報の波高の高い方から順に並べ替えた上位3分の1の平均値の波高を有義波高、周期を有義波周期と言います。つまり、気象情報に出てくる波高や周期の値は「3分の1最大波の平均値」なので、実際には発表された情報の値よりも大きな波に遭遇することがあるということになります。また、波の高さは海底地形にも影響を受けます。

「三角波」「一発大波」

実際の海面では、無数の波の重ね合わせが繰り返しています。それぞれの波は異なる周期を持ち、波の重なるタイミングも様々で、山と山の部分が重なった時には大きな波になりますし、山と谷が重なった時にはあまり大きくならなかったりします。しかし、複数の大波が山同士や谷同士で重なった時、「三角波」や「一発大波」と呼ばれる巨大波になります。時化(しけ)が続く海域では、このような巨大波が発生し遭遇する可能性が高まります。

波の変形の種類とメカニズム

波は海底の影響を受けて変化します。水深の浅い海域(浅海域)に波が侵入すると、波高、波速、波長が変化しますが、このことを浅水変形と言います。
水深が波長の2分の1より浅い場所では浅水変形が起き、副次的に屈折や砕波なども発生します。この他にも浅海域では回折や反射などの波の変形を伴う現象も起きます。これらを総称して「浅海効果」と呼びます。
尚、日本沿岸の浅海域は、殆どの岸から数キロ以内に限られることから、気象庁の沿岸波浪図では、浅海効果は十分に表現できません。沿岸波浪図を参考に岸から数キロ以内の波を推測する場合は浅海効果にも注意する必要があります。

浅水変形

沖からの波が浅海域に入ってきたとき、水深が波長の2分の1よりも浅くなると波高・波速・波長に変化が出ます。
水深に対する波高の変化は、水深が波長の2分の1から6分の1の海域では、浅くなるほど波高も低くなり、元の波高の9割程度まで低くなりますが、それより水深が浅くなると逆転して波高が急激に高くなります。波速は水深が浅くなるほど遅くなり、波長は短くなる傾向があります。

屈折

浅水変形が起きている海域では、波速は水深が浅くなるほど遅くなるため、波の進行方向に入り江や岬などの水深が不均一な地形の場合、入り江などの深い場所では波は早く、岬などの浅い場所では波は遅く進みます。その結果、海岸線に対し、垂直に進むように波の進行方向が曲がります。沖合の波が海岸線に対して斜め方向から来たとしても波打ち際では波が正面から向かってきたように見えます。このような屈折作用によって、岬の先端のような海に突き出た場所は波が周囲から集中することから波高が増大し、砕波も激しくなります。湾奥部では、波が分散して波高は減少します。

砕波

風浪の発達や沖から浅海域に侵入した波は浅水変化により増大する一方で波長は短くなることから急峻な波形になります。急峻な波形が限界を超えると前方に飛び出すように崩れ落ち、白波が発生します。これを砕波と言います。
強風時には、波の頭頂部が吹き飛ばされることで砕波が起きることもあります。

反射

断崖絶壁の海岸線や防波堤などに波が当たると、波がはね返され向きを変え進むことがあります。これを反射と言います。その時に、入射波と反射波の山が偶然に重なると元の波高の2倍近い波が発生することもあります。

回折

島や半島、防波堤などの裏側に波が回り込むことを回折と言います。防波堤に囲まれたような場所でも波の勢いはかなり小さくなりながらも伝わってきます。また、波の進行方向に孤立した島があると、波は島の両側から島を回り込んで後面で重なりあって波高が高まることもあります。
海流・潮流の影響
波向と半島方向に強力な海流や潮流がある海域では、海上を吹く風の相対風速が増し、風が吹き抜ける見かけの距離も長くなることから、風浪がより大きく発達します。これを「しお波」という事があります。また、流れによって海水が移動することで波長が圧縮されるので波形がより急峻になり砕波が起き、波の向きと同じ方向に流れがある海域では流れが無い時よりも波が穏やかになります。

最後に ~沿岸波浪実況図~


気象庁のホームページ中に「沿岸波浪実況図/24時間予想図の見かた」というページがあります。是非、このページの解説も見ておくことをお勧めします。また、沿岸波浪実況図はこちらからご覧ください。
是非、セーリングを楽しむための情報として活用してみてください。

(出典及び引用;気象庁ホームページ)

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この本は、単に気象について書かれたものではなく、気象情報をどのように活用して航海するかという視点で書かれたものです。今や、インターネットで様々な情報を簡単に得ることができる時代ですから、気象予報士のような気象に関する知識より、多くの情報を如何に利用してヨットを楽しむかという考え方と利用の仕方にフォーカスして書かれています。

 

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