ヨットは一般の人にとって謎の多い乗り物でもあります。その中でも、ヨットが一体どのくらいのスピードで走ることが出来る乗り物かということを知っている人は、おそらくヨットをやったことの無い人で知っている人は殆どいないのではないかと思います。何を隠そう、僕たち夫婦だってヨットを始めるまでは全く知りませんでした。

ヨットに乗って最も退屈な時は風が全く無い時です。そして、最も苦しい時は、夏の日の無風の海上でもあります。他にも海が荒れた時など苦しい時はありますが、日本の夏の海は高気圧が日本の上空に停滞することから日中は風が殆ど無くなり、海面は鏡のように波が無くなります。そんな夏の海に出て行って風待ちしている時と言うのは、もう暑くて暑くて仕方ない、ギラギラの太陽でジリジリ焼けるように暑くなり、幾ら海の水面に居ても風が無くては水面からの照り返しもあって暑くて仕方ないという状態になります。我慢も限界を超えるとエンジンを掛けて、とにかくヨットを走らせるわけです。ヨットが動くことで風が起きて少しは涼むことが出来るわけですが、そんな時には燃料の量に対してどれだけの時間エンジンを動かし続けることが出来るか、そして何処まで行くことができるかなんてことを考えながらヨットを走らせるわけです。勿論、風が出てきたら、燃料の消費を節約できるし、セーリングできそうな風ならエンジンを止めます。そうやって積極的に風の力を出来るだけ利用して走ろうと考えるのがヨットで旅をする醍醐味であるとも言えます。

海に出るということは、陸と違って海上にはガソリンスタンドはありませんから、燃料が無く、風も吹かなければ、移動することができません。ですから、出港するときには毎回、出港前に航海計画を立てる必要があるわけです。その時に必要となるのが自分のヨットが1日にどのくらいの距離を航海できるかということです。

勿論、これには天気や海況も大きく影響してきます。そして、積み込んだ燃料の量にもよります。しかし、先ずは航海計画を立てる際には平均的にどの程度の航続距離があるのかと言う知識が必要です。

そこで今回は、「ヨットで1日にどのくらいの距離を航海できるか」というテーマでお話してみたいと思います。

ヨットは長さによって最高速度が決まる

速さは動力源(エンジンなど)の大きさや馬力によって大きく異なりそうに一般的には感じます。しかし、それはパワーボートでしかあてはまらない考え方です。実はヨットという乗り物は水の抵抗を大きく受けて走ることから、ヨットの長さに比例して最高速度は高くなる乗り物です。実はパワーボートの場合、水の抵抗を小さくして速く走るために水の上に乗りあげて走る(滑走する)ことで、水の抵抗を少なくしています。そうするために船体は軽く、そして高い出力のエンジンが必要だというわけです。
ヨット(モノハルのセーリングクルーザー)は、風の力を推進力に換えるために、重り(バラスト)を船底に持っていることから、水面に乗り上げて走る滑走ができません。つまり、船体はどっぷり水に浸かった状態で水を切って走ることから、水の抵抗を大きく受けてしまいます。

ヨットはエンジンで走ることよりもセーリングでより効率的に走れるようにデザインされていることから、基本的にはその限界速度は船の長さに対して比例して早くなります。(かなりざっくりの説明です)つまり、ヨットの水線長が長ければ長いほどヨットは早く走ることが出来ますからヨットの巡航速度もヨットの長さに比例して早いわけです。ヨットの巡航速度の簡単な計算方法は「水線長(フィート)の平方根」にほぼ等しいと言われています。

ヨットの長さに対しての巡航速度

以下の概算例の値は、モノハルのセーリングクルーザーにおける参考値です。

  • 23フィート(約7メートル)≒ 4.7ノット
  • 26フィート(約8メートル)≒ 5.0ノット
  • 30フィート(約9メートル)≒ 5.4ノット
  • 32フィート(約10メートル)≒ 5.6ノット
  • 36フィート(約11メートル)≒ 6.0ノット
  • 40フィート(約12メートル)≒ 6.3ノット

※長さの部分はヨットの水線長です。ヨットの全長ではありません。

マルチハル(カタマランやトリマラン)やフォイリングするヨット、ウイングセイルなどの効率の高いセイルを使用しているなどの場合、この参考地はあてはまりません。あくまでも一般的なセーリングクルーザーの参考値として見てください。

様々な条件下での平均航行距離

上の参考地から解ることは、一般的に言われる小型セーリングクルーザーの平均的な巡航速度は5ノット程度ということです。実は、多くのヨットマンがセーリングの計画を立てる時には、大体5ノットを目安にしています。単純計算では、この5ノットに時間を掛けた数値が1日当たりの平均航行距離と言うことになりますが、実際には常に5ノットで走れるわけではありません。また、1日と言っても条件によって到達可能な距離は異なります。そこで、ここでは目安となるような条件下での到達距離の参考値を書いておきたいと思います。

  • ダウンウインドでのセーリング:100 NM(海里)
  • 長距離航海におけるセーリング:80 NM(海里)
  • 短距離航海におけるセーリング:60 NM(海里)
  • エンジンも使ったセーリング(機帆走):130 NM(海里)

複数の日数に渡る航海(長距離航海)の場合、ノンストップでセーリングことから、1日あたりの距離は増えるます。また、短い距離の航海は、平均値が少なくなる傾向にあります。エンジンを使っている場合は、航行距離を2割から4割増やすことが出来ます。
また、潮流を使ってセーリングする場合には、時間あたりおおよそ5マイル程度、距離を伸ばすこともできます。
これらは、あくまでも参考値ですが、航海計画を立てるうえで大まかな距離感として使うことが出来る値となります。

平均航行距離に影響を与える要因

航行速度は、様々な要因により影響を受けます。その中でも重要な要因となるものは以下ののとおりです。

  • 水線長
  • 船体タイプ
  • 風の状態
  • 潮流
  • エンジンの使用の有無
  • 帆の面積
  • ヨットのコンディション

水線長は、先に書いたように長いほどヨットのスピードは速くなります。

船体のタイプは、セーリングクルーザーでもオールドスタイルのロングキール艇よりも現代的なフィンキール艇の方が速くなりますし、モノハルよりもマルチハルの方が飛躍的に早い速度で走ることが出来ます。浮力が大きく、バラストを積んでいないことから水の抵抗が低いからです。

風の状態は、風上に向けての航行は風下航行よりもかなり遅くなります。

潮流は流れに向かって走る場合には、大きく速度を落としますし、流れに従って走る場合には速度を高めることが出来ます。潮流を横切る場合には、適正なコースを保つことが出来ずに、時間を追加で要することになります。

エンジンの使用の有無は、風が落ちてきたらエンジンを使って補い、風が上がってきたらエンジンの使用を止めることで、平均速度以上のスピードを維持することができます。

帆の面積は、追風時には追い風用のセイル(スピネーカーやジェネカー)を使うことでセイル面積を増やすことが出来れば速度を上げることが出来ます。

ヨットのコンディションは、帆走速度に影響を与えます。古く摩耗したセイルは、平均で1ノット近くのクルージング速度をロスします。また、船底が適切にメンテナンスされておらず、貝や海藻類が付着している状態では、やはり1ノット以上の速度をロスする場合もあります。

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最後に… 航海計画を立てるときは

航海計画を立てる時には、常に保守的であるべきです。つまり、最も控えめな数値を用いて計画しましょう。ここで示した様々な数値は理論上の数値ですから、それより25%控えめな数値で計画することをオススメします。僕たち夫婦のMALU号の平均速度が5.5ノットだとすると、大体4ノットくらいで考えるということです。
風が全くない日があるかもしれません。また、長い航海では海上で何かが壊れて修理する必要が出てくるかもしれません。予測不可能な事態が長い航海では必ずあります。
また、距離についても必ず確認してみてください。その時に直線の最短距離で航行することはヨットでは殆どありません。風で流されたり、潮流の影響を受けたり、ナビゲーションを間違ったりすることもあるかもしれません。ですから、更に3割増し程度で距離を見積もっておくことです。
こうすることで、1日あたりのリーズナブルな航行距離を算出することが出来ます。

航海
1NM(海里)はおよそ1.85kmです。1ノットは、1時間に1NM(海里)進むことができると言うことです。つまり、平均速度を5ノットとして考えると、時速は9.25キロ ということです。歩くスピードが時速5キロ前後と言われていますので、実はヨットは歩くスピードの倍くらいの速度でセーリングするということになります。強風で今日は速度が出たなって言っても、8ノット程度で、これは自転車で軽く走る程度のスピードでしかないということです。しかし、そんなスピードのヨットが世界中の何処までもセーリングで行くことが出来る凄さを持っているのです。

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