ヨットと言ってもセーリングクルーザーのような大きなヨットでないと使わないモノの代表格と言えば「ウインチ」です。船体が大きく重たいセーリングクルーザーを風の力で走らせるためには、それだけ大きなセイル(帆)を展開しなければヨットはセーリング(帆走)してくれません。何トンものヨットを動かすのですから、セイルに風が入っている時のライン(ロープ)類には何トンもの力が掛かっていますから、手でシート(ロープ)を引っ張るだけではセイルを開いたり閉じたりはできません。そこで、必要になるのがウインチです。

ウインチには2つの役割があります。1つは、巻き上げです。大きな力の掛かったシートを引き込んだり、重たいハリヤードを引いてセイルを上げる時には、必ず必要になります。そしてもう1つは、抵抗です。つまり、強いテンションが掛かったシートやハリヤードを緩める時に、一気に抜け出ないように、ウインチドラムに何重にも巻いたロープの抵抗を使って軽い力で安全にロープを出してゆくことがウインチならできます。ウインチは、人ひとりの力では何ともならないロープの引っ張りを補助するためのものですから、正しい使い方をすることで、最大のパフォーマンスを得ることが出来ます。

そこで、今回はウインチについて、いろいろとお話してみたいと思います。

ロープはウインチドラムの厚み分巻きつける

ウインチの正しい使い方で最も長持ちさせるテクニックとも言えるものが、ドラムの厚み分ロープを巻き付けることです。
ドラムとは、糸巻きのようになっているウインチのロープ巻き付け部分のことです。

ウインチへの巻き付け
巻き付けが少ないと、ウインチ本体に掛かる力がドラムの厚みの上下どちらかにロープが寄ってしまい、内部のギアなどの部品が片減りします。特にセルフテーリング型のウインチの場合には、ロープのリード自体が上寄りになりがちで、巻き数が少ないとウインチの上寄りに力が集中するので、急に過大な力が掛かると壊れる可能性まであります。
つまり、ウインチの大きさとロープの太さにもよりますが、おおむね4巻き以上する必要があるということです。プライマリーウインチは、その艇で最も大きなウインチが付いている筈ですので、5回巻きから6回巻きは必要になります。
また、古いヨットでマストに付いているようなシングルスピードウインチなどはドラムの厚みが少ないものもありますが、それでもドラムの厚み一杯に巻き付けるのがベストな使い方です。

ウインチを使う時の合言葉は、『ドラムの厚み一杯に巻き付ける』です。

こうすることで安全度も増す!

ドラム幅いっぱいにロープを巻くことで、ウインチワークの時の他の物の巻き込み(特に手指)を防ぎ、リリース時にもドラムとロープに大きな抵抗を与えることができるので、安全にゆっくりリリースすることができます。
巻き数が少ないと、リリース時にドラムとロープの間に隙間が容易にできてしまい、摩擦度も少ないことから一気に引っ張られてしまいます。

シングルスピードウインチはプッシュ&プル

ウインチと言うと、ハンドルを360度回して使うように思いがちですが、それはダブルスピード型のウインチならではです。シングルスピード(減速比が1:1)のウインチの場合には、ロープをできるだけ手で引き込んでから、最後の力が必要な部分だけウインチにロープを巻きつけて締め込むために使用します。その時には、ハンドルはクルクル360度回すのではなく、ハンドルを前後や上下(ウインチの取付てある向きによる)に小さな振り幅で漕ぐように使います。

漕ぎ幅は、自分が最も力を出せる範囲で小まめなふり幅で漕ぐことです。力の入りにくい角度までハンドルを大きく回してしまうと、作業性が落ちますので、あくまで自分の力の最大限に出せる範囲で作業するのが最も効率的です。

ウインチの主要メーカー4社のソケットの相性

ヨットのウインチの歴史はまだまだ短く、1960年代に初めてヨットに搭載されました。最初のヨット用ウインチを製造したのはアメリカのBarient Winch Companyという会社で、ウインチの基本的な技術や基準はここから始まっています。現在、ウインチを製造している主要メーカーは、Lewmar(イギリス)、Harken(アメリカ)、Andersen(デンマーク)、Antal(イタリア) の4社で、世界のプロダクションボートメーカーは、この4社の何れかのウインチを使用しています。

さて、相性と書いたのは、ウインチとハンドルの関係です。
Harken のウインチを Antal のハンドルで使おうとすると、実はハンドルの抜き差しが極端に悪いのです。これは、アメリカのインチとユーロ圏のミリの単位の違いが大きく影響しているようです。

ウインチの上に付いている穴(ソケットと言います)は、「8ポイント」又は「ダブルスクエア」と呼ばれるソケットの形状でサイズは11/16インチ(約17.4mm)が業界標準となっています。しかし、ソケットの深さについては統一基準が無いようです。また、ハンドルの抜け止めのロックがメーカーよって異なるようで、異なるメーカーのハンドルを差し込むとロックが掛からないということがあるようです。

主要4社以外のハンドルメーカー(アフターメーカー)のハンドルについては、どこのメーカーのウインチを基準として作っているのか解りませんが、多くのアフターメーカーは主要4社のどのウインチにも適応させていると考えられます。しかし、これは実際に使ってみないと解らないことですので注意が必要です。

ウインチハンドルの長さの違いは?

ウインチハンドルの標準サイズは実は10インチのようです。しかし、殆どのウインチメーカーは、8インチもラインナップしています。この8インチ、使い勝手とコストが安いことから、8インチの方が沢山使われています。また、8インチの方がジブの引き込みなどは、早く回すことが出来るという利点もあります。回転半径が小さいのですから、それだけ回し易いというわけです。しかし、荷重が大きなウインチの場合、8インチハンドルでは力不足です。8インチしか持っていない場合には、ウインチのサイズアップを考えるより先に、10インチハンドルを使ってみると、意外に軽く使えるようになります。

ハーケンパワーウインチハンドル10インチ
また、ウインチハンドルには両手の力を効率的に掛けることができるパワーグリップ式のものや、両手で握ることができるダブルグリップの物などがあります。手元の重さが変わるだけでウインチワークはかなり楽になります。

電動ウインチとコードレス電動ウインチハンドル

ウインチの最強バージョンと言えば、電動セルフテーリングウインチとなります。しかし、電動ウインチの設置には問題もあります。
先ず、電源を準備しなくてはならないということです。電動ウインチは、かなりバッテリーの電気使います。ウインドラスならエンジンを掛けて使用しますが、セーリング中に使うウインチは、大抵エンジンを止めた状態で使います。まあ、メインセイルを上げるのが大変で電動ウインチを使うという人が多いようなので、そういう意味ではエンジンを止める前にセイルを上げるので、問題ないかもしえませんが、バッテリーの容量アップはやはり必要になります。
電動ウインチ
また、電動ウインチは、デッキの下にモーターが入りますので、ウインチ取付位置の下に空間がある場所で無いと設置できません。
この、電気容量とスペースの2つの問題を気にせず使えるのが、コードレス電動ウインチハンドルです。
ウインチハンドルですから、ウインチ自体は現在ある物をそのまま使います。コードレスですから充電式なので、使う前に充電しておけば、ヨット側のバッテリーを気にせずに使えます。しかし、充電が無くなってしまったら、ゲームオーバーということも理解しておく必要があります。

電動物の難点は、力の加減が出来ないことです。特に、何かにロープが引っ掛かっていたりしていて異常な状態でも、力いっぱいに引いてしまうことから、壊れてしまったり、セイルが破れたりと、壊れて初めて気付くということがあります。ですから、電動物を使う時には、手回しよりも慎重に使う必要があります。

最後に… この電動ウインチハンドル使ってみたい!

上で最後にご紹介しました電動ウインチハンドルは、電動物にしては10万円を切る製品でお値段はわりとリーズナブル、結構普及しています。でも、僕はこの電動ハンドルは好きになれませんでした。理由はデザインです。ウインチの上に取り付けた時の見た目が美しくないし、バッテリーが上がってしまった後は全く使えないのです。でも、必ず新しい製品が何処かから出てくると思っていたら、ついに出ました!“Electric winch handle Ewincher”って言うそうです。

この製品は、日本には未だ入ってきていない製品にようです。今のところ西ユーロ圏での販売をしており、充電器の電圧対応がAC220VとDC12Vの対応になっています。この製品の良いところはバッテリーが上がっても、電動工具と同じように交換バッテリーを持っていれば差し替えるだけで使い始めることが出来ることです。それも、最新のリチウムバッテリーなので、充電時間も短いのです。
難点は、お値段です。従来品の約3倍とかなりの高額です。普及すれば安くなるという物でも無さそうで、この製品は、全てのウインチを電動化しなくても、1つ分のコストで全部に使うことが出来ますと言っているのです。なるほどね…そう考えると約30万は高くないというわけですね。なるほどです。

来年あたり、ボートショーに登場するかもしれませんね。

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