僕たち夫婦がヨット「MALU号」を手に入れて丸2年が過ぎました。たった3年程度のヨット修行(実のところは修行といえるようなことはそんなにしてないけれど…)では、簡単なルールやメンテナンス、操船の方法がわかったくらいです。つまり、船を買う前のお試し期間を知り合いのオーナーのヨットで経験させて頂いたということでしかありません。実際に自分の船をもつと、それまで修業期間には感じたことのない、いろいろな悩み事や心配事が出てきます。メカにとても詳しい方や業界にいらっしゃった言わばプロレベルの知識や経験をお持ちの方なら、そんな悩みは感じることが無いかもしれませんが、一般人の素人が船(ヨット)を持つということ自体が未知の領域への挑戦でもあります。それは僕たち夫婦にとっても全くそのとおり、とにかくこの2年の間にいろいろなことがありました。特に最初の1年目は何をするにも初めて尽くし、正に「大変だった」と言うのが正直な感想でもあります。
このブログでは、あまりネガティブなことは書きたくないと言うのが僕の基本的な考え方なのですが、日本で唯一のヨット専門誌であるKAZI 4月号の記事に「オーナーになる人にあるのは、お金じゃなくて情熱です」と言う見出しに、僕も「そうなんだよね…」って共感。新たなことに挑戦をするという事は、お金も掛かるし、いろんな障害もあるけれど、どれだけやりたいって気持ちや情熱があるかだと思うのです。つまり、いろんなことが起きるけど、腹を括ってそれらを克服してゆくこともヨットライフの楽しみと捉えて頂きたいと思うのです。
そこで、これからヨットを持とうとする方にとっては、予めこんな憂鬱なことがあるよってことを知っておいて頂くのも悪くないかなって事で、僕の中での「憂鬱10選」を今回はご紹介したいと思います。
Contents
メカニカルな憂鬱
船のトラブルは、オーナーにとって最も憂鬱なことです。船に関する知識は乏しいし、プロに頼んだら決して安くはない費用が掛かってしまいそうで、とにかく憂鬱な毎日を過ごすことになります。
1. 船内の水漏れ、ビルジの憂鬱
水漏れはあってはいけないもの、あると気になって仕方がないものではNo.1に数えられるものです。
我がMALU号も水漏れにはとにかく悩みました。床板を外してみると水漏れによる湿気でカビだらけ…。ビルジは汲み出しても汲み出しても、出港する度に毎回汲み出しをすること1年半、とにかく憂鬱でした。
水漏れの原因も様々で、やってもやっても次々と問題が出てくる始末。ここでは詳しくは書きませんが、あった事象だけを列挙すると、エンジン冷却用の海水ポンプからの漏れ(ポンプごと交換)、バウバースのステンレス清水タンクからの漏れ(解体撤去)、サイドハッチからの漏れ(コーキング)、トップライトハッチからの漏れ(コーキング)、サイドウインドウからの漏れ(コーキング)。
2年後の現在、水漏れとの対決に勝利しました!(ホント、勝ったって気分です。)船内は完全ドライ。とにかく排水しまくったし、吸水剤やペーパウエス、水取りぞうさん(押し入れ乾燥剤)もかなり使いました。汲み出しだけはとにかく上手くなりました。しかし、現在では、どんなに荒れた海でセーリングした後でも、どんなにヒールさせても、台風や大雨の後でも、床板を開けてチェックしても船底には水は一切見られなくなりました。
2. エンジン排気から煙が出ている憂鬱
これはめったに起こることではないかもしれません。しかし一度起き始めると毎回のセーリングが憂鬱になります。何故なら、出入港時に必ずエンジンを使うからです。エンジンは補助動力ではありますが、エンジンが壊れてしまっては大変なことになります。つまり、解決しないと憂鬱でたまらないのです。MALU号の場合には解決までに1年半以上の時間を要してしまいました。マリーナのメカニックやメーカーなど、誰に相談しても、その理由が判らない、小型船舶用ディーゼルエンジンについて学習するしかないと思ったくらいです。そして、ネットで検索し続ける日々…とにかく憂鬱でした。
しかし、とある情報で解決の日の目を見ることとなったのです。MALU号と同じVOLVOエンジン搭載のミラベルを整備したことがあるメカニックの一言で問題解決することとなったのです。
それまでの間に、我がMALU号のエンジンは、燃料系、冷却系のフルオーバーホールを行い、燃料ポンプも交換、エンジンのヘッドも開けてシリンダーブロックも分解チェックするという事までやってしまいましたが、問題解決には至らなかったのです。まあ、その代わりにエンジンの悪かった部分を見つけることもできたので、それはそれで良かったと前向きに考えるしかありません…。
ココでの教訓は、ヨットの世界では自動車のようにトラブルに対する情報共有が全くされていない…ということです。
3. 船が発する異音の憂鬱
ヨットはセイル(帆)を上げている時と下ろしている時で様子がかなり異なります。セイルを上げているときには、風を受けているときには船の上には大きな力が掛かっています。ヒールして帆走しているときには、水中のラダーやキールにも大きな水圧が掛かっています。つまり、ヨットには大きな力が掛かっているわけです。そうすると、様々なところから異音が出てきます。僕は特に音に敏感で、コンビニビニール袋を手に提げて歩いている時のシャカシャカ音も嫌いな程です。ヨットの経験が浅いこともあって、過剰に心配しているだけなのかもしれませんが、異常な程の異音は憂鬱です。
一例としては、ジブシート用のウインチは、かなり大きなサイズのものがMALU号には付いてます。今は、新しいものに交換しましたが、交換する前の物は、とにかく重たくてゴツイのに、風をはらんだ状態で巻き上げを行うと、何だかギアが外れてしまいそうな音がするのです。これは交換するまで憂鬱でした。古いウインチだったので、メンテナンスパーツも手に入らないし…。
ラットも回すと鳴くような音がするのが、ものすごく気になりました。鳴っている場所は特定し、グリスアップもし直して、鳴きは止まりしました。とにかく異音が出始めたらメンテナンスのサインだと思うしかありません。
4. 変な振動が起きる憂鬱
振動は困ったものです。セーリング中に振動が出るものは殆どありませんが、エンジンを掛けている時には、エンジン自体が振動しているものなので、これは致し方ないかもしれません。しかし、スロットルを倒し、エンジンの回転を上げて行く段階で大きな振動が出るのはエンジンのせいではなく、他に原因があります。特にプロペラに何かヒットしてシャフトやプロペラに歪みがでると、回転数を上げると振動が出てしまいます。これをそのままにしておくと、更に不具合が様々な場所に飛び火します。これはとても憂鬱です。
MALU号でも、何故かエンジンを掛けて走り始めると、いつもよりも音が何となく大きなったような…と思っていたら、年に一度の上架メンテナンスで「プロペラに何かヒットしたみたいですね。プロペラ歪んでますし、センターがズレてます…。」一発ヒットでアウトです。あーぁ…憂鬱。
5. バッテリー上がりの恐怖に対する憂鬱
バッテリーの残充電量はボルト表示のメーターで現在の電圧が表示されることで判断します。これ、ハッキリ言って、物凄くストレス感じます。電気が無くなっちゃったらエンジン掛からなくなる…という恐怖との戦いです。
バッテリーが複数あるヨットは、必ずエンジン始動専用に1本、その他の電気器具用に1本~数本を割り当てていますから、エンジンを何度もかけ直すようなことが無ければ、バッテリー上がりの心配は実はありませんが、古い艇の場合には電気器具類がとにかく電気を食います。なので、MALU号ではとにかく消費量を減らす努力をしました。船内外の照明器具は全てLED化しました。灯火類もLED認証品に取り換え、更にバッテリーでの電気消費をできるだけ少なくするようにしています。
今どきのヨットには、最低でもバッテリーは3本以上は詰まれていますが、MALU号はエンジン用とハウス用で各1本の2本です。ハウス用の物は、エンジン始動用の物より容量の大きなものを積んでいます。
本気で外洋をクルージングするわけではないし、ロングのクルージングも今のところは予定が無いので、もしバッテリー容量が更に必要なことになったら、ポータブルバッテリーの大容量の物を別途積もうかと考えています。
6. オズモシスというFRP船ならではの憂鬱
最近の殆どのヨットは船体がFRPで出来ています。FRP(エフアールピー)はFiber Reinforced Plasticsの頭文字を取った言葉で、「繊維強化プラスチック」と訳されますが、グラスファイバー繊維にプラスチック系の樹脂を塗布して船体を形作っています。強化プラスチックですから溶けたり腐ったりし無さそうに思いますが、実はFRPの上にゲルコートと言う表面仕上げ材が塗ってあります、このゲルコートの層に製造段階で空気などが混入し目には見えないようなピンホールが開いていると、そこから海水が入り込みゲルコートやプラスチック樹脂、グラスファイバーなどと化学変化を起こすと内部を溶かしてしまい穴があいてしまいます。
このオズモシスは、水疱のようになっているので、船底塗装などの際に塗装を剥離したりする作業で発見されます。
ヨットは、部分によってFRPを使いながら中に木板や様々な複合素材で強度を保つように船体を造っているので複合している素材との間でオズモシスが原因で剥離を起こし、更に水が入って中にある母材を腐らせたりすることもあります。つまり、大雑把に表現すると、幾ら強化プラスチックの船体であっても結局のところ腐ってくることがあるという事です。デッキの床が何となく浮いた感じになってきたりするのは、それが原因です。
オズモシスらしき症状を一度見つけてしまうと、これまた憂鬱になってきます。しかし、一旦オズモシスを見つけてしまったら補修をしっかり行うしかありません。
自然に対する憂鬱
ヨットは海と言う自然を相手にした遊びです。自然現象などは実はどうしようもないことばかりなのですが、ヨット乗りならではの様々な憂鬱が隠れています。
7. ホンダワラや海上浮遊物の憂鬱
海上の浮遊物に衝突して船を失い遭難するヨット映画と言えば、ロバートレッドフォードさんの一人芝居でも有名な「オール・イズ・ロスト」がありますが、あの映画のような大型コンテナに海上で接触することは無いにしても、春先に大発生するホンダワラ(海藻)が抜けて浮いて束になっているところを通過するだけで、フィンキールやプロペラに長いホンダワラが絡まってしまい、そのままエンジンを掛けようものなら一気に巻き付いてしまい、潜って外すしかありません。
それだけではありません。大雨や台風の後には、海に流れ出てきた様々なゴミや木材などが沿岸には浮いています。完全に浮いて水面に見てえいれば、ワッチ(見張り)をしっかりしていれば避けることもできますが、半沈(水面近くに浮いていても水面下にある)状態では、幾らしっかりワッチしていても見えません。
これらはとても憂鬱です。だからと言って、天気も海況も良いのに海に出ないのはヨット乗りにとっては更に憂鬱なことです。どうしたものやら…。
8. フジツボや貝類、藻類の憂鬱
ヨットの保管を陸揚げしている場合には、殆どこの憂鬱を感じることはないですが、係留保管している場合には、これはある意味戦いでもあります。頻繁に船を出して走らせている場合には、フジツボや藻類が船底に着くことは少ないのですが、貝類はスルーハルの穴の中や小さな隙間に入り込んで生息します。
なかなか船をだすことが出来ない日が続くと船底に水生生物がついちゃうなぁって憂鬱になるわけです。
まあ、毎年船底を塗り替えて綺麗にしていれば問題ないことなんですがね…。
9. 夏の猛暑の憂鬱
夏はマリンスポーツの最盛期のような感覚を誰しもお持ちだと思います。しかし、ヨット乗りにとって夏の猛暑は本当に憂鬱です。何故なら、高気圧が張り出して快晴の空模様では無風状態が続き、海面は鏡のように真っ平になってしまいます。つまり、セーリングに必要な風が全く吹かなくなるのです。空からはギラギラの太陽が照り付け、鏡のように凪の水面の照り返しも半端ない。もう暑くて暑くてたまりません。風が無いからとじっとしていると、じりじり暑いだけなので、ついついエンジンを掛け船を走らせ走っている時の風を扇風機代わりにそこらじゅうを走り回るという事になります。まあ、何処かにアンカリングして海水浴するのが夏場は一番なのかもしれません。
更に、停泊中の夏の夜は最悪です。風の無い夜のキャビンは暑くてたまりません。一昔前は海上は比較的涼しいなんて言われていましたが、近年の地球温暖化の影響なのでしょうか、猛暑の夜はエアコンと扇風機なしには眠れない熱帯夜となっています。
我がMALU号はマリーナで桟橋の陸電を取って夜は船のエアコンを動かして水上生活を楽しんでいますが、昼間の猛暑は船内に居るのはエアコンがあってもね…と言う感じです。
10. 天候不順で出港できない憂鬱
最後はなんと言っても、天候不順により出港できない日が続くことによる憂鬱です。我が家は妻とのダブルハンドでセーリングしていますから、妻の仕事の休みと僕の休みが合わないと船には行けません、妻は普通の勤め人なので、週末や祝祭日が基本的に休みなので、この週末のタイミングに天候不順が続くと、あっという間に数週間、船に行かない、出港できないという事が続くわけです。もう、憂鬱というより欲求不満ですね。梅雨時期や台風シーズン、更には真冬の極寒期など、日本の四季は安定的にセーリングをさせてはくれません。これは本当に憂鬱になってしまいます。まあ、仕方ないと言えば、仕方ないことではあるのですが、もう連休ともなると、とにかく船で過ごす時間を増やすしかありませんが、良い時期の平日に最高のセーリング日和の日が続き、その週末に天気が悪くなると僕の機嫌も悪くなるので、妻にとってはそれも憂鬱なことだろうと思います…。
最後に「憂鬱のまとめ」
ヨットを所有して楽しむことが、これを読んでしまうと憂鬱なことだらけのように見えてしまうかもしれません。ヨット(セーリングクルーザー)を持つという事は、別荘を買うようなものですし、1分の1の大きなプラモデルを買うようなものかもしれません。こつこつあちこちメンテナンスしながら、あーだこーだと言いながら、憂鬱と戦うのです。
しかし、実際には憂鬱なことも海に出てしまえば「あー来てよかった、海最高!」って気分にいつもなります。それに、良い風が吹いて気持ち良いセーリングが出来た日は、なんだか嬉しくもなります。ナイスセーリングだったねなんて言いながら桟橋に舫をとって冷えたビールを飲むときが、何事にも代え難い幸せなひとときかもしれません。セーリングに疲れて夜にバースのベッドに潜り込んで眠る夜は格別なものがあります。緊張と緩和のように、憂鬱なことがあるからこそ、喜びもひとしおなのかもしれません。
憂鬱を乗り越えるポイントは、まさに「情熱」ですね!
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