ヨットを始めクルーとして数回セーリングに出た頃、自分のこれまでの海の経験値だけではダメだという事に気付き始め、何処かでキチンと知識を仕入れる必要性を感じ始めました。(まあ、当然のことなんですが…)
ボートなら出港~係留 or アンカリング~帰港という流れで、移動中は操船している船長以外は船に対して何もすることがありません。しかし、ヨットはセーリングすること自体が目的でもあり最大の楽しみですから、ヨットに関する正しい基礎知識は必要です。出港してから目的地に着く間にも、船長以外のクルーも風や波などの変化に応じて操船作業をチームとして行います。ここでわからないことがあるという事は、セーリング十分に楽しむことができないということになります。そんなとき、ヨットスクールに通おうと考えるのはちょっと重た過ぎる、先ずは何か良い教科書は無いかと本を探すと思います。最近はインターネットで何でも検索すれば出てくる時代ですが、いろいろ出てくる検索結果に対して、何をどう選ぶべきかの判断はとても悩むところです。特にヨット関係の書籍については口コミ情報なども限られることから、最後は表紙のイメージで決めてしまいがちです。結局、僕の場合は教本的な出版物を古い昭和の時代の物から現在発売中のものまで、10冊近く買って読み漁りました。また、ヨットにまつわる書物(小説や航海記、帆船物なども含む)は現在では本棚1個分くらいになり、ちょっとしたヨット(セーリング)出版物コレクションになっています。まあ、僕は何か興味のあることが出来ると、とにかく本を買い漁るのが趣味のような人な積読家(とりあえず買って机に積んで置く)なのでこうなってしまうだけなんですが。
さて、今回はそんな経験を通して、「ヨットを始めようと思った時のオススメ本」を何冊かご紹介したいと思います。
Contents
ヨット関連書籍の基礎知識
先ず、オススメ書籍のご紹介をする前に、少しだけヨット関連書籍のことについて知っておくべきことを幾つかお話しておきたいと思います。
情報の古いものが多い
とても残念な話なのですが、ヨットが最も日本で流行したのは1980年代以前、つまり昭和の時代です。バブル経済崩壊以降の長い不景気の時代、ヨットは一般の方々から贅沢品の烙印を押され見向きもされなくなり、今や絶滅危惧種なんて言葉が使われ始めるところまで来ました。しかし、昨今の景気回復傾向やバブル世代と言われるヨットが流行していた時代を知っている世代の方々が現役リタイアを迎えたことなどから、ヨット人気が少し再燃し始めているように感じます。しかし、ヨット関連の出版物はなかなか新刊が出にくい状況にあります。特にビギナー向けの出版物は再版本以外に新刊として出版されることはありません。しかし、日本のこのような状況に関係なくヨットは確実に進化を遂げており、そのような最新の情報は再版本には反映されていないのが現状です。
書店で殆ど販売されていない
10年くらい前までは、書店でもボート免許の本や船に関する出版物のコーナーが書店にありましたが、現在の書店にはヨットどころか船に関する出版物コーナーも殆どの書店では姿を消しました。インターネットであらゆる本が買えるようになったので、書店では話題性の無い本や売れない本は置かないという傾向が強まったのが大きな理由ではありますが、とても残念なことです。
ご紹介する本の選択基準
今回ご紹介する本は、現在流通しているヨット(セーリングクルーザー)のビギナー向けの4書籍です。ご紹介する順番は初版の刊行が新しいもの順としています。
セールボート教書 SAILBOAT BIBLE(KAZIムック Kazi別冊)
セールボート教書 SAILBOAT BIBLE (KAZIムック Kazi別冊)
この本はボート(ヨット)関係の専門出版社である舵社が出している月刊誌「KAZI」の別冊として発売されたビギナー向け入門マニュアル本です。ヨット(セーリングクルーザー)入門書としては最新刊で2015年7月に出版されました。
月刊紙の別冊なので広告なども入っている関係でコンテンツ内でもスポンサー色が出ている部分は否めませんが、全体的な構成としてはセーリングクルーザーを始めてみたい、または始めたばかりの人が全体像を掴むには最適の1冊だと思います。
ヨットライフに関する実際例を5例紹介するところから始まります。紹介事例は、「夫婦でゼロからこつこつと。250万円で始めるヨットライフ」「昔も今も続くヨットの絆 旧き朋輩とのクルージング」「帆走るだけがヨットじゃない!出会い、集う、豊かなクラブライフ」「津々浦々を訪ねるヨットの旅 シングルハンドで日本一周」「小舟で知る素晴らしき世界 悠々自適な人生のよき相棒」と、ヨットライフの実例を紹介しています。
次に、「HOW TO SAILING」と題して、ヨットのセーリングに関する基礎的な部分の説明やウエア、ギア、艤装などの説明と、ビギナーが気になる基礎的なポイントが書かれています。
そして、購入ガイドやヨットの始め方(スクールやクラブ)、体験レポートなどを紹介しています。
全体的に月刊誌の別冊ですので、キッチリした教本と言うよりは、ヨットを本格的に始める前にセーリングクルーザーの世界が全般的にどうなっているのかを知るための情報収集的な本として最適な一冊だと思います。
セーリングと艤装のすべて ヨット百科
この本も最初にご紹介した舵社が刊行している本です。内容はビギナーに限らず、既にヨットをやっている人からヨットオーナーまで、「これ1冊でヨットの全てが分かる、完全保存版」(引用:本誌の帯のPR文より)な内容となっており、2013年3月に出版された本です。
この本は5章構成になっています。「第1章 ヨットとはなんなのか」(ヨットの起源から種類、構造、原理)、「第2章 艤装」(ロープ、リグ、その他の艤装品)、「第3章 セーリング」(走らせ方、トリム、上り下り、レースやクルージング)、「第4章 クルージング」(実際のクルージングシーンで必要な知識)、「第5章 安全」(海難、個人装備)となっています。
ヨット百科と謳われているだけあって、百科辞典的な構成になっています。図を多用して説明しているので、細かい部分まで詳しく知りたいという場合には、とても役に立つ一冊だと思います。艤装品などについては、2013年初版の本なので、比較的最近の製品が事例にでていますので、古さを感じることはありません。
教本と言うよりはエンサイクロペディア(百科事典)的なものなので、セーリング教本の副本として1冊あると非常に役立つと思います。
個人的に感じたことですが、セーリングクルーザーに乗るためにはディンギーからやった方がいい的な考え方がこの本全体から感じられます。実際にはいきなりセーリングクルーザーに乗っても良いと思うのですが、基礎的な部分での解説にはディンギーによる図が多用されていますので、ヨットをよく知っている人なら問題ないと思いますが、ビギナーには少し戸惑ってしまう部分があるかもしれません。しかし、ヨットを本格的に始める人には、持っておいて損はない1冊だと思います。
新米ヨットマンのための セーリングクルーザー虎の巻
この本も舵社の発行の本です。「これ一冊でセーリングをマスター、外洋ヨットの入門書」(引用:本誌の表紙カバー文)とあるように、実際にセーリングクルーザーでセーリングすることに主眼をおいて順序立てて説明をしている実用書で、2007年2月初版の本です。
この本は、全13章からなる構成になっており、「1.ヨットに乗る」「2.風向とヨットとの関係」「3.セーリング艤装」「4.ロープワーク」「5.住居/電気装備」「6.エンジン」「7.セールを揚げてみよう」「8.係留とアンカリング」「9.なぜヨットは風上に向かって走るのか?」「10.クローズホールド」「11.フリー」「12.気象、海象」「13.荒天帆走」とセーリングシーンごとに書かれているので非常に使い易いセーリングマニュアル本となっています。
写真やイラストを多用し、実際のセーリングシーンをそのまま紙面上に再現している点が非常にわかり易く感じました。2007年刊行ながらも、現在でも古さを感じさせない誌面構成と当時の最新機材を使って説明をしていることで、現在でも違和感がないのだと思います。
前に紹介した「ヨット百科」はヨット全般に関してのエンサイクロペディアなのに対して、こちらの本はセーリングクルーザーに乗るためマニュアル的な構成になっているので、初心者がセーリングクルーザーのセーリングのことを学びたいという場合にはこちらの本から入るのをオススメします。
外洋ヨットの教科書 インナーセーリング(1)
この本は舵社から出ている本ですが、著者の青木洋氏が主催する青木ヨットスクールで実際に使用されている教本を一般にも販売しているものです。また、この教本は青木ヨットスクールと提携しているアメリカセーリング協会(ASA)が認定する日本語版教本でもあります。
内容は基礎レベルの教本として、4章構成になっています。1章「セーリングの知識」。2章「セーリングの技術」、3章「ヨットの安全」、4章「ナビゲーションの基本」となっており、セーリングにでるための基礎的な知識や方法が網羅されています。写真を使わずイラストで必要な基礎的部分をフォーカスするように書かれているので、非常に見易くわかり易いのが特徴です。また、白黒の誌面なので自習時に大切だと感じた部分にマーカーや赤入れする、書き込みをした場合など、目立ち易いようになっています。また、各項目は見開きで1項目になっており、ノートとして書き込みもできるようになっているのも本書の特徴です。
アメリカセーリング協会(ASA)について
日本ではセーリングクルーザーを実際に操船する場合には小型船舶操縦免許が必要ですが、諸外国では国家免許制度はありません。その代わりにASAのようなセーリング協会組織が自主的に基準を定め認定証を発行することでその人の技量を証明するという形をとっています。この認定証の所持者にはレンタル艇やチャーターボート(セーリングヨットを含む)を貸し出す、マリーナなどの施設利用ができるようにするなど、技量の確認ができない場合には水際で危険を食い止め海の安全を保つ自主規制を行っおり、それが実質的な操縦免許制度と同じような存在になっています。ですから、ASAのライセンスを受けるという事は、アメリカまたはASAのカリキュラムを採用している世界各国でセーリングクルーザーの操船やそれに伴う施設利用ができるようになるということになります。(※日本ではASAのライセンスがあっても小型船舶操縦免許が無いと原則的に操船はできません)
この本は実際に海に出る手順に従って各項目が書かれています。初心者がセーリングクルーザーの基礎を学び実際に海に出るための教本とするには最適な1冊だと思います。特に僕のようなヨットクルーから始めた人にとっては、自分の知識や動きがスタンダードな物なのかを確認するには良いと思いますし、自分がオーナー船長として自分のヨットを操船する際にも確認教本として使えるものだと思います。
最後に
それぞれ特徴の異なった4冊をご紹介しましたが、どの本がオススメなのかというと、それは一概には言えません。ビギナーと言ってもビギナーのどの時点にいるのかによって選ぶべき本は異なってくるからです。しかし、このサイトでこのコンテンツを読まれているいるという事は、かなりセーリングクルーザーに興味がある方でしょうから、ご自身がどの時点でどういう情報が欲しいのかによって選んで頂ければと思います。
因みに僕の場合には、興味が出始めて最初に購入したのは「セールボート教書 SAILBOAT BIBLE」でした。その後に本格的に乗るようになり「セーリングクルーザー虎の巻」を追加購入、自分の船が欲しいと思い始めて「ヨット百科」を買いました。「インナーセーリング」はこれを書くために買いましたが、とても良い教科書だと感じました。僕が最初に何か本で学びたいと思った時のニーズはまさにこの内容が最も適していたように思いました。
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