ヨットで遊びに出て、何処かの入り江で一休みしながらゆっくりランチや海水浴でもしようという事になるとアンカリングは欠かせません。また、日本の漁港では係留時に多くの場合に「槍付け」します。その際には、船尾側からアンカーを落として船首を岸壁側にして係留しますから、その際にもアンカーは欠かせません。

中古艇を買うと元から以前のオーナーが使っていたアンカーがバウのアンカーローラーに掛かっていたり、バウロッカー(アンカーウェル)に入っていたりします。アンカーは法定備品で2個は必ず積んで置かなければならないので、新艇を買う際にも船検を通すために2個は必ず積んであります。しかし、元から積んであるからと言って必ずしもそのアンカーがその艇に対して適切な物とは限りません。

我がMALU号もバウ側とスターン側に其々アンカーが元からありましたが、ある日のこと先輩セーラーの方に「このアンカーではこの艇には小さいんじゃないかな?」って言われたことがあり、それから気になってアンカーのことを調べるうちに、様々なことが解ってきました。

アンカー

そこで、今回は「ヨットのアンカー選びについて考えてみる」と題して、アンカーに関する諸々をまとめてみたいと思います。

アンカー選びのポイント

アンカーのことを調べれば調べるほど、実はアンカー選びは単純ではないということに気付きます。それは、アンカーが1つの形しかなければ単純な話ですが、様々な形状やデザインのアンカーがあることです。何故、このように幾つもの種類のアンカーが出来てしまったのかと言うと、海底の状態(水底の底質)が場所によって異なることから、デザインによって底質に対する向き不向きがあるのです。底質にどんなものがあるかと言うと、大雑把には「砂地」「海藻が茂っている」「柔らかいヘドロのような軟弱な底質」「硬く締まった底質」「岩地」などです。
次に、自分の艇のサイズや重量によって、そのアンカーサイズを決める必要もあります。大きな重たい艇に小さく軽いアンカーでは抵抗力が足らずにアンカーが効かなくなってしまいます。

つまり、アンカーを選ぶ際には、➀使う底質に合ったもの、➁自艇のサイズに合ったもの、を選ぶ必要があるという事です。

アンカーに求める基本性能

アンカリングするときに、アンカーに求めることこそ、基本性能としてきちんと機能して欲しいことは以下のとおりです。
水底に早く深く食い込むこと
これはとても重要な基本性能です。水底に早く深く食い込むという事は、それだけ保持色が高まるからです。
高い保持力
保持力はアンカーの表面積、ブレードの形、そして埋まっている深さで保持力が決まります。
風向きや潮の向きの変化に対応できること
風向きが変わったり潮が回るときこそアンカーの真価が問われます。
新たな向きで再び素早く深く食い込むことが求められますが、水底を転がってしまったり、海底に十分な深さで食い込まず、走錨してしまうことがあります。

ヨットの大きさとアンカーサイズ

アンカーのサイズはどのメーカーでもアンカー本体の「重さ」で表示しています。
下の表はヨットの長さに対するアンカーの最低サイズを示しています。
※この表は一般的な平均値ですので、特殊なアンカーや新製品などについては各メーカーが提供する参考値を確認のうえ選択するようにしてください。

艇の長さ(ft) 20 26 30 33 36 40
重さ (kg) 7 9 12 14 16 18
最近の新艇については、船の長さに対してハルの大きさ(横幅)が従来のヨットサイズに比べて大きくなる傾向にあります。船体の容積が大きければ、それだけ船の重や波や風、潮などの影響を大きく受けることになりますので、一段または二段大きなサイズ(重さ)を選択することを推奨します。
また、ハルが鉄製である場合や長さに対して平均的なヨットの重さより重たいヨットの場合も大きなサイズを選択することを推奨します。

オールドスタイルのアンカー

ここでは古くからヨットに用いられている代表的なアンカーを紹介します。

フィッシャーマンアンカー

このアンカーはアンカーの中で最も古いデザインのアンカーですが現在でも多く使われています。ヨットではあまりなじみが無いように思われがちですが、岩地や海藻地帯に最適です。海に落とすと海底に横たわり片側の歯が海底に突き刺さります。潮が回るとチェーンが巻き付き一体化することで走錨を抑えます。収納時には上部のストックを曲がっている方に引くと折り畳むことができるものや、引き抜くことができるものもあります。
フィッシャーマンアンカー

CQRアンカー

このアンカーは1933年に登場しイギリスでとても人気のあったアンカーです。スイベル式(首振り)のヘッドにより風や潮の変化に対応できるようになっています。スイベル式ヘッドは特許となっていることから、他で真似されることなく現在も販売されています。注意点としてはアンカーウェルなどに収納する際にスイベル部分で指を詰めたりする可能性があるので、取扱いに注意が必要です。
CQRアンカー

ダンフォースアンカー ”Danforth”

1940年代に飛行艇用として開発されたアンカーです。砂や泥の海底では非常に優れていますが、その他の底質では殆ど機能しません。また、風や潮の変化にも殆ど対応できません。しかし、収納時には平らに収納できるので、スペースをあまりとらないのが特徴で多くのヨットに積まれています。
問題点は、沢山の類似品が出回っています。しかし、類似品は開いたときの爪の角度や大きさに対して重さが非常に軽い物など、本来あるべき性能が殆ど機能しない物が多いとの実験結果が出ています。購入する際にはオリジナル品を購入することを強くお勧めします。
ダンフォースアンカー

ブルースアンカー “Bruce”

別名クローアンカーとしても有名なこの一体型のアンカーは1970年代に開発されました。ヨット用アンカーとしてはオールラウンドな性能がありますが、唯一、海藻の茂った海底は苦手です。
潮や風の変化で艇が回り込んだ時にも、浮き上がることなく回転し、再び引っ張られることで海底に深く刺さって行きます。
一体型のデザインで船上での取り扱いも安全で現在でもとても人気のあるアンカーです。
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デルタアンカー “Delta”

このアンカーは1980年代に開発されたアンカーでCQRアンカーをブルースアンカーのように一体型にした進化版CQRアンカーと言えます。近年はアルミ材質の軽量な物も発売されており、大きさに対して軽くなっているので船上での扱いが楽になっていますが海底への効き具合は変わらない性能を発揮しているようです。
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オールドスタイルのアンカーまとめ

以上のアンカーは、基本性能はどれもクリアしていますが、ダンフォースは砂地では非常に威力を発揮しますが、その他の底質では殆ど機能しなかったり、岩や海藻の茂る底質ではフィッシャーマンに勝るものはありません。また、アンカーが水底で横転した時の復元性には、どれも若干の不安があります。

ニュースタイルのアンカー

オールドスタイルの弱点を克服するべく、いろいろなアンカーが考案されましたが、その中でも非常に実用的なアンカーをご紹介します。

ビューゲルアンカー “Bugel”

ビューゲルアンカー
1990年代にドイツで開発されたこのアンカーは、ニューデザインアンカーの先駆けで、アンカーに初めてロールオーバーバーを取り付けました。これは、アンカーが横転した場合の復元を容易にするためのもので、これにより起き上がりこぼしのように適正な状態になりいち早く水底に食い込んでゆくようになります。また、このアンカーは製造コストを抑えながら、殆どの底質に優れた性能を発揮し、潮や風の変化でも食い込んだ水底から露出することなく向きを変えます。

スペードアンカー “Spade”

スペードアンカー
1996年にフランスで発明されたこのアンカーは、地中海の泊地でよく見られる海藻が多く茂った中を突き抜け海底に達することができるようにデザインされています。また、このアンカーは収納時はスパナ(レンチ)で容易に分解することができロッカーに簡単に収納することができます。このアンカーはオールドスタイルのアンカーに比べて保持力は非常に高く、ヨーロッパでは多くのヨットが使用しています。

ロクナアンカー “Rocna”

ロクナアンカー
2004年に開発されたこのアンカーはイラストで見てのとおり、ビューゲルアンカーとスペードアンカーのいいところ取りしたようなデザインのアンカーで、これまでのアンカーの問題点を殆ど克服しています。唯一の問題と言えば、ロッカーへの収納が容易ではない位です。今のところこれ以上の保持力と復元性を兼ね備えたアンカーは無いとの評価を海外のヨット関連誌などで得ています。
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最後に…

アンカー本体の選択は、今や最新のアンカーを使用することで殆ど不安は無いと思います。しかし、アンカーは正しいサイズの選択とセッティングがしっかりされていないと能力を十分に発揮できません。例えば、それはアンカーチェーンを最低でも4メートル以上は必ず取り付けることや、必要な長さ(推進に対して4倍以上)のアンカーラインを伸ばすことなど、正しく使用されなかった場合にはアンカーの本来持つ性能を引き出すことができずに十分な効果を得ることができません。

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このアンカーはRocnaアンカーの最新モデルVulcanというアンカーです。湾曲した腕の部分が従来品にあったロールオーバーバーの代わりに姿勢を正しく戻しブレード(爪)が水底にスムーズに入るように工夫された製品です。
なかなか面白いコンセプトの製品ですが、ヨーロッパを中心に非常に人気のあるアンカーだそうです。

アンカー選びは、正しい選択と正しい使い方で、楽しいヨットライフを送っていただきたいと思います。

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