我がMALU号には、前オーナー時代からついてたマリンエアコンがあります。それがついに故障したのは、以前にもお話しました。ブロアーファンが動き出そうとするときに異音を発し、なかなか回転も上がらない状態となったのです。冷えてはいるけど、冷気を排出することが出来なくなったのです。そこで、マリーナから電装屋さんに診てもらい、修理対応できないものかを確認してもらうことに…、直ぐに電装屋さんが来てくださって、結果はやっぱりブロアモーターがダメだという事で、メーカー(日本の代理店)に交換部品の供給があるかなどを確認してみるということになりました。ここまでは想定通りで、僕も既にネットでブロアモーターの品番設定がないか、そして出回っていないかの確認を始めていましたが、残念ながらMALU号に載っているエアコンの部品供給は一般には無さそうでした。他のメーカーは、ファンのアッセンブリーで供給があってコスト感もそれで解っていたので、あとは電装屋さんからの回答がどうなるかなと連絡を待ってました。(一般に出回っているという事は、ブロアモーターの経年劣化による交換のニーズが多いってことですね。)マリーナの担当さんから連絡があり「部品代だけで16万円、それに工賃が掛かるので全部で大体20万円は掛かりそうです…」やっぱりそう来たかって感じでした。

実は僕は似たような業界の某米系メーカーの現地(日本)子会社に勤めていたことがあって、こういう物の輸入や値付けなどのロジックは知っていたので、自分なりに今回のコストはこれくらいになるっていう予想はあったのですが、その倍以上の金額に…。OMG!です。他社の数社で調べてみると現地価格で400ドルもしないんですよ。でも、そこで考えたのが今載っているマリンエアコン、既に廃盤製品で同型の現行品の写真を見るとファンの形状が異なってる。ブロアファンって、そんなに技術革新されるような製品ではないので、これはファン自体に以前から問題があったんだなって思ったわけです。

結論から言いますと、もう修理することは諦めることにしました。…と言うか、最初からこの機会に載せ替えしてしまった方がいいなって内心思っていたからです。前回のエアコンについての記事を書いている時にも、現行品は今載っているものに比べて、進化していることが判ったからです。

そこで、マリンエアコン第二弾の今回は、なぜ家庭用エアコンよりもマリンエアコンはコストが掛かるのか、現行型のマリンエアコンはどう進化しているかなどを含めて、様々なマリンエアコンの「?」についてお話してみたいと思います。

なぜマリンエアコンの価格は高いのか

先ずは、そもそも論から入りますが、何故マリンエアコンは家電量販店で売っているエアコンよりも値段が高いのか?という話ですが、これを説明するにはマリンエアコンと家庭用エアコンの違いを理解する必要があります。
家庭用エアコンは今や6畳用で3万円台(勿論、壁吊式で室外機を置くタイプ)の低価格なものまで出始めていますが、マリンエアコンで6畳用というと、実は9000BTUから12000BTU位の物がそれに該当します。現地価格(アメリカなどのメーカーのある国の価格)で本体のみで1750ドル~2000ドル位(大雑把に20万円前後)の価格で販売されています。家庭用のエアコンの場合、室内機と室外機、その間の配線配管でワンセットになっていますが、マリンエアコンの場合には、本体装置以外に吹き出し口のグリル、ダクト、リターングリル、ホース、スルーハルバルブ、ストレーナー、スルーハル、海水ポンプ、その他金物類などのインストレーションキットにおよそ1200ドル位(大雑把に12万円前後)が必要になります。取付工賃は家庭用もマリンエアコンも別途必要ですから、ここでは考えないとしても、モノだけで比較すると家庭用は4万円~10万円くらい、マリンエアコンは安く見積もっても32万円ですから、大きな差があります。

なぜそんなに価格差があるのか?

何と言ってもその最大の違いは 生産台数 です。今や日本では一家に一台どころか、1部屋に1台の勢いでルームエアコンが設置されていますが、マリンエアコンは船の数しか売れません。つけていない船も沢山あるくらいですですから量産効果は非常に薄いわけです。販売台数が多ければ常に技術革新もあり、メーカー間の競争原理もはたらくことから低コスト化が実現されますが、あまり売れない物に大きな開発費を投じてもコスト回収すらできないということで、マリンエアコンの主要部品は他の分野で使われている部品を組みわせて製品化されています。また、メーカーでもオーダーが入ってから組立するというような体制のところが殆どで、量産効果を得難い製品と言えます。

基本構造の違いによる差

マリンエアコンと家庭用エアコンは、その構造的が全く異なります。それが熱交換の方法です。マリンエアコンは外部から海水を取り込んで熱交換することで排熱していますが、家庭用エアコンは直接大気を使って排熱しています。海水温は同じ場所の大気温に比べて暑い場所は低く、寒い場所では暖かいという性質がありますから、それが直接冷暖房効率に反映されるわけです。しかし、海水を取り込むためには、海水ポンプや船底にスルーハル、バルブなどを設置しなければならず、海水ポンプはエアコンが稼働中ずっと動き続ける必要があることから高性能なモーター(長時間稼働しても高温にならない高効率な)ものが必要となることから、海水ポンプもコストの高いものになってしまい、システム全体としてコストが高くなってしまうわけです。

使用環境の違いによる差

陸上と海上では、その設置環境に大きな違いがあります。特に稼働していないときの環境は機械に大きな影響を与えます。マリン用の場合には、大きな温度変化や高温多湿、更に塩害に加え、機械自体が海上にあり常に静止した状態ではなく常に船が揺れていることから、揺れや振動の影響を常に受けます。それに比べて家庭用エアコンの設置環境は海上に比べれば圧倒的に良い環境であることから、部品の材質や組付け方などの違いがコストに大きく跳ね返ってきているということでです。(簡単に言えば、船用はかなり頑丈に造る必要があるので高くなるということです。)

サイズの違いによる差

マリンエアコンは限られたスペースで効率の高い空調を実現しなければならないですが、家庭用エアコンの場合、ある程度の大きさは許容されます。(室内機と室外機を分けて設置することが許される)つまり、小型で高性能を求められるマリンエアコンはコストが高くなってしまうわけです。

日本で更に高額になる理由

日本で販売されているマリンエアコンの販売価格をみていると、もう完璧に手が届かないと諦めざるを得ないような価格になっています。かつての日本では為替の影響などもあり輸入品はなんでも高いという時期もありましたが、今やそういう価格体系は時代遅れです。しかし、それは販売者の問題だけではなく、諸外国に比べて日本の特殊事情もあるからです。

【日本の特殊事情➀】
日本は何でも業者任せと言う人が多いことです。お金持ちならそれもありですが、欧米ではDIYするのがあたりまえという考え方があり、日本ならプロがやるようなことでも、欧米では殆ど何でも自分でやろうという考え方があります。どうしてもできない部分やインスペクションのために無資格ではできない部分だけをプロにお願いすることから、大体のヨット用品や機器が安くで売られています。マリンエアコンも同様に、自分で取付や交換を行う人が多く、物自体を安く販売しないとお店も流行らないという競争原理がはたらいているので、日本よりも2割以上安くで店頭販売されています。

【日本の特殊事情➁】
日本にはヨット用のマリンエアコンを製造しているメーカーは存在せず、マリンエアコンの全てを海外製品に頼っています。また、マリンエアコン・メーカー自体も支社などを日本に置いている企業はなく、ヨット用のマリンエアコン全体が輸入代理店や商社、マリン用品店の個別輸入などで調達されていることから、非常に高コスト体質となっています。

【日本の特殊事情➂】
マリンエアコンは交流115V以上で動作する者ばかりです。日本の家庭用電気は、交流100Vで周波数は 50hzと60hzの2種類があります。100Vは先進国の中で最も低い電圧であることが、マリンエアコンの動作に問題を引き起こす原因となっています。
また、日本でも場所によっては電圧が更に低い場所もあり、そこに機器が設定している周波数と異なる物の場合、機能しなくなるという事も出ています。モーター物や熱機器は電圧が低いと能力が下がる程度で済みますが、エアコンは圧縮機による動作なので、電圧が低いと圧縮率が下がり効率よく動作できなくなるという問題があり、日本の電気事情とマッチしていないということがあります。

ちょっとネガティブなことばかりが続きましたが、これではやっぱりマリンエアコンは高くて諦めるしかないような気分になってしまいます。そこで、ここからはそれでも何とか少しでも安くで取付られる方法を考えてみることにしましょう。

BTU ってなに?

マリンエアコンを取り付けようと考えるときに、先ずは自分の艇に合ったマリンエアコンを選ぶ必要があります。その選択基準になる物がBTU(熱量単位)です。家庭用エアコンでいうところの、6畳用とか13畳用なんて言う感じで、数値が大きくなると、それだけ大きな空間を空調する能力があるというわけです。
最もよく使われるのが 12000BTU (12K BTU)くらいの能力ですが、12000BTUは、1000立方フィートを空調する能力があります。これはおよそ28.3立方メートルにあたり、おおよそ一般的な家の6畳間の空調が空調できる能力に相当します。ヨットで言えば34フィートくらいまでのヨットのメインキャビン、バウバース、クォーターバースを空調できる能力に相当します。最近のヨットはハルの形状が大きくなり室内空間を大きく取るような設計になっているので、古いヨットなら1段下の能力でも充分だと言えます。我がMALU号は37フィートですが古いヨットなので実際にキャビン内の容積をザックリ計算してみたところ、12000BTU相当でした。実際にこれまでのエアコンも12000BTUのものがついていて寒いくらいの時もあったことを思うと、なるほど適当な能力だったんだと思いました。
ヨットのドッグハウス内は、窓も小さく閉鎖された空間なので、この数値を基準に検討すれば大体どの程度の能力のものが自分のヨットに必要かを知ることができます。

(BTU)=(立方フィート)≒(立方メートル) の順で書いていますので参考にしてください。
6500=550≒15.5 、9000=800≒22.6 、12000=1000≒28.3 、14000=1200≒33.9 、16000=1400≒39.6

大体の計算方法は、キャビン内の空間の幅、長さ、高さを測って計算すれば容積を出すことができます。

自分の艇に設置できる場所はあるか?

マリンエアコンは、本体装置が収まる場所を先ずは自分の艇内で探す必要があります。最近の艇の場合には、元から取付を想定した空間が準備されていますが、古いヨットの場合には以下の要件にあった場所を検討することになります。

  1. 本体装置が収まり、メンテナンスができる空間があること。本体には制御ボックスも含まれます。
    大体の場合、メインキャビンの長椅子の下、またはバウバースのベッド下などが適当な空間になると思います。
  2. 水線下30センチ以上の下になる部分にスルーハルを設けられる場所を探す。
    本体装置を設置する場所から最も近くで海水を取り込むためのスルーハルを設けられる場所を探します。海水ポンプで汲み上げるからと言って、あまり遠くでは水を送り出す能力に限界がありますので、本体にできるだけ近く、できるだけ水深が深い位置にスルーハルを設置し、バルブ、ストレーナー、海水ポンプの順番で徐々に上に上がってゆくような勾配をつけて配管できる場所を選びます。

この2つの条件がクリアできる場所があれば、マリンエアコンを設置することが出来そうです。

何をプロにお願いするか?

マリンエアコンの設置は主に2つの内容はプロにお願いすることになります。

  1. 電気配線です。電気配線は陸電ともつながるため基本的にプロにお願いする必要があります。マリンエアコンを据え付けることができれば、あとは電源への接続などもプロにお願いすれば間違いありません。
  2. スルーハルの設置とバルブ取付です、この作業は上架しての作業になります。スルーハルの取付をミスすると、いろいろと不具合が増えてしまいますので、プロにお願いしたきちんとした防水とバルブ取付までをお願いすれば、あとは各器具の接続だけなので、自分でできる作業になります。

ヨット用マリンエアコンの設置は、大体どのメーカーのどの機種でも殆ど同じです。(※水冷方式であればということです)
本体装置とコントロールボックス、そして海水の取り込みルートと海水ポンプ類の設置、そしてダクト類の引き回しとグリル(吹き出し口)の取付です。

どうやってマリンエアコンを購入するか?

これが最も大きな問題です。できるだけ安くで購入したいという場合には、海外から自分で取り寄せをすれば、割安で購入することができます。
実は、日本ではあまり見ないのですが、アメリカのディーラーやボート用品店のサイトを見ると冷房専用(暖房の機能の無いクーラー)という機種もあり、これだと更に安く購入することができます。また、海外ではキャンペーンなど割引している製品や時期もあるので、マメにチェックしておくと10万円以上安くで購入出来たりする場合もあります。
決済もクレジットカードやペイパル、Amazon決済までできるところもあります。
送料についても最近は国際宅配が進んできたこともあり、かなり安くなっています。(※送料以外に通関手数料を到着時に配達の業者に現金で支払う必要があります。)
海外からの直接調達が心配と言う方は、前回のエアコンの話の時にもご紹介しましたタートルマリンSIOSAIというマリンエアコンは価格的にも能力的にも初めて設置される方にはオススメです。

マリンエアコン最新技術動向

マリンエアコンの技術進歩は外見的に大きな変化が無いことから、あまり進化していないように思われがちです。しかし、最近はヨットの電源をソーラー発電など全てで賄うと言うのが欧米ヨット界でのトレンドで、高出力のソーラー発電パネルも続々発売されていることから、更にその傾向は加速化しています。バッテリーもディープサイクルのもの以外にもリチウムイオンバッテリーの登場でバッテリーでマリンエアコンを動かすということまでできるようになり始めています。更に、ポータブル発電機でもクーラーを動かすことが出来るという小型ヨットには非常にうれしい機種も登場してきています。(12000BTUまでであれば、それが可能になり始めています。)これは、コンプレッサー(圧縮機)の性能があがってきていることや、同じ外径でも出力が上がったことで実現できるようになった背景があるようです。(そういうコンプレッサーは大体日本製なんですよね…。)

ポータブル発電機でも動かせるマリンエアコン
This unit will run off of the new Honda EU1000i 1,000 watt portable generator while in cool mode. Another option Mermaid recommends is to use a Statpower pure sine wave 1,800 watt inverter and 450 amp hours of battery power and you can anchor out for the night.
このユニットは新しいホンダのEU1000i(1000W)のポータブル発電機でも冷房を使うことができ、更に1800Wのインバーターを使う事で450A/hのバッテリーで一晩過ごすこともできます。

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最近のマリンエアコンの動作電流は10アンペア以内と非常に低電流で動作することが、このようなことを可能にしています。

最後に…

我が家はなにを置いても、夏場のマリンエアコンは必須とあって、今回交換することになりました。今まで搭載していたものと同じメーカーにすると物凄くコストが掛かってしまうと諦めていたのですが、アメリカのマイアミにあるディーラーのサイトで販売価格を見てびっくり、同じ機種で最新型が2000ドルを下回っていたんです。詳しく調べてみたところ、最新機種と言ってもサイズなどは全く同じ、古い機械を外して差し替えるだけなので作業も楽そうです。

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“ヨットにマリエアコンの設置を検討する” への1件のコメント

  1. 私もマリンエアコン導入は悩みましたが、最終的にオフグリッド化のためにDC12Vのマリンエアコンを導入しています。これなら、インバーターによる損失や突入電流も気にしなくていいので、ハウスバッテリーやオルタネーターで十分に稼働しています。デメリットは配線が太くなってしまうところです。

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