我家のMALU号も今年で3回目の上架メンテナンスを済ますとヨット保険の満期が来て更新の時期になる。MALU号を前オーナーから買って回航を自分ですることに決めた時、船の登録と同時に真っ先に検討したのがヨット保険だ。だって、初めて乗る船(試乗は一応したけど…)の初めての航海で何が起きるか解らない。いくらベテランヨットマンである前オーナーに同乗してもらうにしても、瀬戸内海から駿河湾までの道のりはお互いに初めてとあって、とにかく保険には入っておいた方がいいだろうと思い、これまた前オーナーがMALU号を購入する際にお世話になったというヨットディーラーに保険代理店を紹介してもらい回航直前に保険加入した。

保険加入の際には、保険代理店とFAXでのやりとり見積書を送ってもらい、見積書を見て「やっぱりこんなに掛かるんだ…」と言うのが正直な感想。一応、予算として事前に頭の中にはあったのだが、自動車の保険のように何かの補償金額を落として保険料を軽くできるのでは?なんて思っていたので、代理店の担当者に何か安くする方法は無いの?なんて話をしたが、残念ながらヨットの保険は自動車のように柔軟ではなく、決まってしまっているので船体保険の部分の保険金額を下げるくらいしか手は無いと言われた。しかし、回航中に事故で沈没でもしてしまって、購入金額が戻ってこないのも嫌だったので、見積書通りの金額で保険加入することにした。
…と言うのが、僕のMALU号を購入した当時のヨット保険に加入した時の話です。

ヨット保険

それから加入しているヨット保険は継続更新となり、今年で3回目の見積書が郵送で届いた。MALU号に乗り始めて丸3年、僕自身が保険を使うというような事態には今のところ遭遇していないけれど、周りでは事故や船の損傷などで保険を利用した人の話を耳にしたりする。話を聞くと、とにかくそれに掛かる費用の高いこと! 皆一律に口を揃えて言う事は「保険で補償されるから大丈夫!」「保険に入ってて良かったって思ったよ」って言う。そんな話を幾度となく聞かされると、保険はケチらず、とにかく気持ちよく見積書通りに加入するという考えになった。まあ、その分頑張って稼いでくるしかない。

…という事で、今回はヨットの保険について掘り下げてみたいと思います。

ヨットやモーターボートの保険基礎知識

ヨットやモーターボート(総称して以下、プレジャーボート)にも自動車保険と同じように保険があります。自動車保険には、自賠責保険(強制加入)と任意保険(任意加入)の2段構えになっていますが、プレジャーボートの場合には任意保険しかありません。
これが自動車保険制度と異なる部分です。その他は大体は自動車保険と同じように、賠償責任、搭乗者、船体(自動車保険の車両保険に該当します)となります。船の保険として特有なものとしては、検索救助費用という補償項目があります。(補償に関する詳細は後述します。)

プレジャーボートに対する保険は大きく分けて以下の4種類があります。

ヨット・モータボート総合保険

これは一般の損害保険会社が販売するプレジャーボート向けの保険です。
加入対象は、1.帆走ヨット(トン数制限なし) 2.総トン数20トン未満の非営業用モーターボート 3. 総トン数5トン未満の船舶 漁船、水中翼船、ホバークラフト、各種作業船は除く、水上オートバイは加入可 となります。

プレジャーボート総合保険

これも一般の損害保険会社が販売する保険です。
加入対象は、非営業用であれば総トン数制限なく加入できます。こちらの保険は、主にヨット・モータボート総合保険に加入できない大型艇を対象にした保険と言えます。いわゆるスーパーヨット保険ですね。

プレジャーボート責任保険

この保険は日本漁船保険組合がプレジャーボートに向けて販売している保険です。
加入対象は、5トン未満のプレジャーボート(プレジャーモーターボート、釣り船、レジャーヨットなど)※漁船(漁船登録がある船舶)、水上オートバイ、各種作業船、教習艇、競走用モーターボート、ゴム製のボートは加入出来ません。 に限られています。
漁船保険組合の保険の特徴は、捜索救助費用がセットで付帯されていること、無事故の場合には保険料が割引になること、更に保険料がとても安いことなどです。5トン未満ならこの保険がオススメです。

プレジャーボート責任保険についてはこちらから詳細を確認することができます。

小安協ヨット・モーターボート総合保険

海上保安庁の外郭団体である「小型船安全協会」(小安協)が窓口になり会員向けに団体割引(5%引き)で提供している保険です。小安協への入会は個人、法人の何れでも可能です。入会する場合、入会金及び年会費が掛かります。尚、保険内容については、一般の保険会社が提供するヨット・モータボート総合保険と変わりはありません。

小安協ヨット・モーターボート総合保険についてはこちらからご覧下さい。

ヨットやモーターボートの保険における補償内容

保険の種類によって、補償の範囲はことなりますが、プレジャーボートの保険には、主に以下の補償内容があります。
➀ 対人賠償:衝突相手の乗船者、ダイバー、遊泳者など
➁ 対物賠償:他船、漁業用施設、桟橋、公安設備など
➂ 捜索救助・人命:落水者の捜索救助に掛かる費用
➃ 捜索救助・船体:事故による曳航救助に掛かる費用
➄ 搭乗者傷害:自艇の搭乗者
➅ 船体保険:偶然な事故によって船体に生じた損害

賠償責任保険

上の➀と➁に該当する保険です。「他人を死傷させたり他人の財物を破損したために負担する法律上の賠償責任」によって被る損害に対して保険金が支払われます。例えば、他船との衝突やマリーナ等の桟橋への衝突や乗り上げ、海上施設や標識への衝突、海上に仕掛けられた定置網や生け簀などに誤って突入してしまうと、きわめて多額の賠償金を請求される惧れがあります。こういう時に有用なのが賠償責任保険です。

船体保険

自動車保険でいうところの車両保険に相当するのが➅の船体保険です。
沈没・衝突・座礁・火災・盗難などの偶然な事故によって自艇の船体に生じた損害に対して保険金が支払われます。一見何でも補償してくれるように思われがちですが、偶然な事故で起きたものしか補償されません。日常的に起きる軽微な故障による損害は対象外ということを理解しておく必要があります。
また、事故の際にその損害を査定されますので、全損の場合でも保険金額満額が必ずしも出ない場合があります。

捜索救助費用

上の➂と➃に該当する補償についてですが、捜索救助費用については人命と船体に分かれますが、人命では「沈没した艇から投出されたり、艇から落水した人を捜索及び救助するための費用」のことです。船体については、遭難により自走が不能になり曳航救助が必要となった場合の費用を補償します。人命はど種類の保険でも準備されていますが、船体については準備されていない場合もあります。

搭乗者傷害補償

この補償は搭乗者が自艇で死傷した場合にあらかじめ合意した金額の保険金額が支払われるものです。保険料は、1名の保険金額と1事故の保険金額の組合せにより決められます。

保険では補償されないケース

自然災害や酒酔い運転などが免責になるのはどの保険にも共通ですが、その他の人為的事故については、どの保険で何が補償され・何が免責されるのかがとても複雑ですので保険加入する際には正確にその内容を知っておく必要があります。
特に言えることは、故障は原則補償されないということです。損害保険は本来「外来・偶然・急激に発生する事故を補償の対象とする」という原則です。ですから、エンジンの焼付き・故障損害・欠陥・磨耗・腐食さび等の自然消耗などによる修繕費は補償の対象とはなりません。エンジンの焼き付きも急な故障も急激に発生するものではありません。普段のマメな点検やメンテナンスを行ってれば防げるものという考え方です。
また、捜索救助費用において「燃料・オイル切れ、バッテリーの不調、燃料コックの開け忘れ、船底プラグの閉め忘れなど、軽微な機関故障や不適切な操船による場合」、保険金は支払われません。これも、出港前点検や適切な操船を行わなかったために発生するものですから船長にその責任はあるという考え方です。

保険に加入するには

プレジャーボートの保険は、かなり特殊なものであることから、一般の損保会社の支社、支店、代理店では取り扱っていないところもあります。これは、プレジャーボートに関する知識がかなり必要となるからです。ですから、保険に加入したい場合には、マリーナやボート販売店に先ずは相談してみるのが良いと思います。また、上で紹介した、日本漁船保険協会などは、直接問い合わせをすれば資料を送ってもらえます。また、最近ではやっぱりググってみることですね。「プレジャーボート」「保険」というようなキーワードで検索すると幾つも保険に関する情報が出てきます。更に、ヨット(セーリングボート)については、「ヨット」「保険」というキーワードで検索すると、ヨット向けの保険を紹介しているサイトが沢山ありますので、参考にしてみてください。

最後に… 保険はヨットライフの必要コスト

我家のMALU号に掛けている保険は一般の保険会社で販売しているヨット・モーターボート総合保険です。保険料は今年の更新時で年間おおよそ18万5千円です。物凄く高いのですが、実は賠償責任(1億円)、搭乗者傷害(1名1000万、1事故1億円)、捜索救助費用(200万)の3つ合わせても掛金はおよそ3万5千円程度です。(カッコ書きの金額は補償額です)保険料の殆どである15万円は船体保険料です。船体保険は補償100万円あたり掛金は2万5千円で、年々掛けられる金額は下がって来るのですが今年は600万申し込みました。保険料を下げたければ船体保険の部分を下げれば安くすることはできますが、このあたりは個々の判断になります。

海難事故は、起こさないに越したことはありませんが、自動車に比べてヨットやボートの事故は予測がし難いのが実情です。行ったことの無い海面に行けば、漁網や仕掛けがあったり、海図を事前に見ていても暗礁や暗岩があったり、何もないと思って走っていたら波消しの防波堤が水面すれすれにあったりと、中には桟橋に船を着けようとして突風が吹いて船首が陸電ポストに突っ込むなんてこともよく聞く話です。何処で何が起きるかはわかりませんが、事故が起きた時に頼りになるのは結局のところ保険しかありません。また、自分の船だけのことなら諦めるという事も出来るかもしれませんが、他人に対して賠償責任が発生してしまったら逃げることは絶対にできません。
そういった意味で、保険はヨットライフにおける必要不可欠なコストと考えるようにしています。確かに、契約者数が少ないことから自動車保険のように安くはありませんが、年間通じて月割りにして考えれば、ちょっと外食を我慢するとか、ちょっと無駄使いを我慢すれば良いだけのことです。自分のためにも他人に迷惑をかけないためにも、ヨットを楽しむためには保険は必ず加入されることを強くオススメします。

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