ヨットにおけるビルジの存在は、厄介以外の何者でもありません。僕たち夫婦もMALU号に乗り始めた頃には、とにかくビルジに悩まさた話は、以前の記事「ヨットの船内は常にドライが基本です」で書いた通りですが、ヨットの場合にビルジが厄介者なのは、ヒールしてセーリングした時にキャビンの床に漏れで出てくることです。そのビルジに燃料やオイルが混ざっていたりすると、もう本当に掃除が面倒です。また長い間、船底の何処に居たのか解らないようなビルジが突然出てきたりすると、もうそれを突き止める作業は容易ではありません。特に面倒なのは、ハルの内側に付けられた補強構造材もFRPの積層された成形物なので、この中に入った水は穴という穴から船全体の床下を走り回るので完璧に抜いてしまいたいけれど、なかなか思うようにはいかないことです。船底内部の構造はヨットに大きく異なりますから、僕たちのヨットのようには困らないヨットも沢山あるんだと思いますが、とにかくビルジは厄介者というわけです。

キャビンの床下

さて、そんな厄介者のビルジですが、ヨット乗りが日常的に使っているこの「ビルジ」という言葉は、そもそも単体で使う時には別の意味があるのはご存知でしょうか? そんなことを深堀していたら、それが重さの単位の「トン」まで行き着いてしまいました。

そこで今回は、「ビルジ」の本来の意味と単位「トン」との関係についてお話してみたいと思います。

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「ビルジ」の本来の意味

ビルジは、僕たちヨット乗りにとっては「船底に溜まる水などの液体」のことを指す言葉のように思っていますが、実はこのビルジは正しくは ビルジウォーター “bilge water” と言い、それを短縮して「ビルジ」と呼ぶようになった言葉です。つまり、ビルジには別の意味があります。
“bilge” 本来の意味は「船底の丸い湾曲部」のことを指す言葉で、そこから「船底」全体を指す言葉になりました。ですから、「船底に溜まる水」ということで、”bilge water” なわけです。

ビルジ

「ビルジ」の語源

「船底の丸い湾曲部」という意味で使われるようになった理由は、その語源にあります。
“bilge” の元となる言葉は、ラテン語の “bulga” 「革袋」に由来しており、革袋は中に様々なものを入れてふくらみを持っており、この「ふくらみ」「出っ張り」のあるものを “bilge” としばしば英語では使うところから、船底の丸く湾曲した部分を “bilge” と表現するようになったわけです。例えば、ワインや洋酒を入れる木製の樽の出っ張った部分も “bilge” と呼びます。
膨らんだ部分と言う意味では「バルジ」”bulge” という言葉もありますが、こちらは英語では「膨らみ」とか「胴」と言う意味があり、平らな部分が外側に膨らんだというような言葉で用いられます。海事用語では「船底」という意味での「ビルジ」”bilge” に対して、大型船などの平らな船底から舷側に向かって立ち上がってゆく角の丸みの部分のことを「バルジ」”bulge” と言って使い分けています。
語源的な流れでは、”bulga”「革袋」⇒”bulge”「出っ張った膨らみ」⇒”bilge”「丸い膨らみ」と言った具合のようです。

船のビルジに積む「樽」

中世フランス語に “bouge” と言う言葉があります。これはビルジの語源と同じラテン語の “bulga” と同じ起源の「革袋」という意味の言葉で、フランス語でも “bulge” は膨らむという意味で使われる言葉です。
中世フランス語では “bouge” は「船底」とか「樽」と言う意味を持っており、その名の通り「樽」は船底に積まれていたことから、「船底に積む積荷」と言う意味合いで “bouge” と船乗りの間では呼んでいたと考えられます。

さて、中世のフランス地域から帆船に積み込まれる “bouge”「樽」と言えばワインのことですが、現在のフランス地域のワインをイングランドに運んでいました。13世紀以前は Rouen(ルーアン)の港から運んでいましたがフランスとの戦いで奪われると、その後数十年間は La Rochelle(ラ・ロシェル)の港から運んでいました。1224年にラ・ロシェルもフランスに奪われると、イングランドの統治下だった Bordeaux(ボルドー)の Port de la Lune(月の港)から、その後数百年間は積み出されていました。

船の大きさを樽の数で表した

このイギリスへワインを積みだすときの船の大きさをワイン樽を積み込める量で表していました。ワイン樽のことをボルドー地域の人たち(古スランス語)は “tonne” と呼んでおり、この語源はワイン樽を叩いたときの音が “tun-tun”(トントン) という音がすることから “tonne” となったというわけです。現代の重さの単位である「トン」は、このワイン樽のから来ているということです。
因みに、原油価格の1バレルと言うのも、樽のことを現代英語では “barrel”(バレル)と呼ぶことから、1樽で幾らと言うような表現になっており、物の量の単位の中心は「樽」から来ていると言うわけです。

最後に… 船の大きさを示すトン数

樽を積み込める数から始まった「トン」ですが、現代では船の大きさを表す方法として、総トン(G/T)、純トン(N/T)、排水トン(D.T)、載貨重量トン(DWT)など、船の容積や重量であらわす方法がとられています。これって、なんでこんなにいろいろあるんだって感じですよね。

  • 総トン数(Gross tonnage)は、船の外板の内側の全ての容積のことで、商船や漁船などでもっとも広くつかわれています。
  • 純トン数(Net Tonnage)は、旅客または貨物を運ぶために使われる場所の大きさをあらわしています。つまり、容積を表しています。(これが昔の樽の数で船の大きさをあらわした名残りの考え方です。)
  • 排水トン数(Displacement tonnage)は排水量とも言いますが、船の実際の重さのことで、船を水に浮かべたときに押しのける水の重量で示します。主に軍艦などがこれを使用して大きさを示します。(実際の船を吊るしてはかりで測る事ができないことから、このような排水量という考え方が生まれました。)
  • 載貨重量トン数(Deadweight tonnage、DWT)は、船が安全に航行できる積載量を表す単位で船自体の重さは含まれず、貨物や燃料、淡水(真水)、バラスト水、食料、乗客、乗員などの総重量を示します。(陸のトラックの積載量表示と同じ考え方です。船の場合、燃料や水なども、ものすごい量になる事から、このような計算法になっているわけです。)
重さ実測
因みに、僕たちヨットの船検証上のトン数表示は「総トン数」と船検証には記載されています。(詳細はこちら船の容積を総トン数に換算して算出するのですが、実際にクレーンで吊るした時に重量を教えて貰ったら、これがなんと実際値と船検証の総トン数、殆ど同じなのです。これはちょっと驚きでしたね。

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