僕たち夫婦は何艇もの中古ヨットを見て回りましたが、最初の頃は中古車選びのように、何となく見に行って装備や設備が希望の物が付いているかばかり気になっていました。当然、そういう部分も大切ではあるのですが、実際にヨットを見に行くという事は、ヨットのコンディションを確認しに行くことなのです。中古車を見る場合、普段から割と使い慣れているものなので何となく見ているようでも、座席に座ってみてハンドルを握り、エンジンを掛けてみて、試乗してみれば大体のことは解ります。それをヨットでもすんなりできれば良いのですが、初めての購入となるとその経験値は極端に少ないので、自分がそれまでにクルーとして乗ってきた経験で考えるしかありません。3年近くもクルーとして乗ってきたにも関わらず、最初に中古艇を見た時には家に帰ってきて一体なにを見てきたのかと自分自身が思えるくらい、いい加減な見方しかできていなかったので、確認忘れや見忘れがとても多くありました。
そこで、中古ヨットを見に行ったら必ず確認すべきポイントを今回より複数回に分けてお話したいと思います。そして今回は「艤装」についてお話しします。
Contents
動くべきところがスムーズに動くか
まず最初は、これに尽きます。動くものを買うのですから、動くべきものが適正に動くかどうかを全て確認しなければなりません。これは艤装品だけに限ったことではありません。長く使われなくて動かなくなった部分もあったりしますので、可動部分は全て自分の手で動かして確認が必要です。
ウインチ
ウインチは実際にハンドルを付けて回してみてください。2段減速式の場合には右回りと左回りも確認が必要です。また、多段階減速式の場合には使い方がウインチによって異なりますので、オーナーまたは立会人(業者)に使い方を質問して確認してください。電動ウインチの場合も同様です。また、ウインチをハンドルを付けずに手で回してみることでギアのメンテナンス状況を感じ取ることができます。メンテナンス不良だと回りが重たく感じたり、何か擦れているような感じがします。また、ギアの音が小気味よくキリキリ(カチカチ)言わない場合も分解メンテナンスが必要なサインです。
ブロック類
ブロック類は中のシーブが滑らかに回転するかを確認します。シーブはブロックの中にあるロープと接する滑車部分のことです。この回転が良くないとロープを引いたときにスムーズに動かずに逆に抵抗になってしまいます。シーブを指で回してみてスムーズに回らない場合には交換が必要です。
クラッチ(ロープストッパー)
ロープが戻らないように止めておくためのクラッチですが、クラッチのレバーが極端に思い物はメンテナンス不足です。長い間使われていなかったりすると、レバーが固着したりしている場合がありますので、何回か開け閉めしてみると良いと思います。また、閉めるときにスムーズに閉まらないからと言って無理に閉めようとするとロープを留めるカムが壊れてしまうことがありますので、閉まりにくいときにはオーナーまたは立会人(業者)の人に使い方を確認した方が良いです。
トラベラー
メインシートを左右に移動させるレール部分になりますが、スムーズに動き引っ掛かりが無く動くかをチェックするといいです。
ジブシートリーダー
これもレール状になったものですが、ブロックがレール上をスムーズに動くことができるかを確認します。
ブーム
ブームは左右上下に振れますが、メインシートを緩めてスムーズに左右に振ることができるか確認します。
ブームバング
ブームバングにガス式やバネ式のブームを跳ね上げさせるリジットバング(支柱)が付いているものがあります。これがブームをフリーにした状態のときにブームが落ちてきたり、上に跳ね上げられない場合には、リジットバングが効かなくなっていますので交換が必要です。リジットバングが付いていなくてもブームバングのテークルが組んであれば、引き込みだけをブームバングで行い、ブームが落ちてくるのを止めるのはブームエンドに付けたトッピングリフトを使う方法もあります。リジットバングは適正に使用されていないと、固着して動かなくなったり、スムーズに可動できなくなっているケースも少なくありませんので必ず確認が必要です。
ジブファーラー
ジブファーラー(ジブセイルを巻き取る仕組み)がスムーズに動かないものは、交換にかなりの費用が必要になるので確認が必要です。上下の回転差が大きいものは劣化が進んでいます。セイルを展開するときにコントロールロープ巻き取られてゆきますが、その際にロープが偏って噛んで止まってしまう場合には、コントロールロープをリードしているブロックやフェアリードに問題があるので、位置の調整やコントロールロープの交換でスムーズになる場合があります。
メインファーラー
(ファーラータイプではないヨットも多いです)
メインファーラー(メインセイルを巻き取る仕組み)は動きがスムーズでない理由がメカニカルな理由よりもセイルに問題がある場合が多いです。引き出し、巻き取りの際にはブームをフリー状態にして上げ気味にして操作します。そうしているにも関わらず動きが悪い場合には何処かに問題があります。セイルが伸びて変形してしまいセイルを巻き取る際にしわが寄ってしまうようだと巻き取りがスムーズでなくなります。又は、無理に巻き取ってしまうと、引出しがスムーズに出くなります。こういう場合には、メインセイルの交換またはリカット等の対策が必要になります。メインファーラーは割とベテランのヨットマンでも使い方を誤っているヨットがみられ、メインセイルに変な癖がついてしまってスムーズに動かなくなっているケースが多いです。
メインファーラーがスムーズに動かないということは、セイルダウンやリーフがスムーズにできないという事ですので、セーリングの際にに大きなストレスが発生するという事です。
ハリヤード類
ハリヤード類は実際に引いて動かしてみてください。ハリヤードはマストにシーブが入っていますが、このシーブが壊れていると極端に重く動きが鈍いので解ると思います。また、上げた状態のメインセイルをメインハリヤードをリリースしてみてスムーズにセイルが落ちないようであれば、スライダーに問題がある場合もあります。
マストに付いているシーブの交換は結構面倒な作業なので、できれば避けたい不具合の1つです。
各種開閉部
ドアやハッチ、ロッカーの蓋など、全ての可動部分を開け閉めして確認してみてください。中には開けられなくなっているものや、金具類が脱落するものなどあります。
舵関係
ラットやティラーがスムーズに動くかどうか。ティラーはラダーに直結されているので、動きが悪ければラダーの取付部分に問題がある場合が多いです。ラットの場合には、回してみてスムーズに最後まで回り切れば特に問題ないですが、途中で引っ掛かりがあったり、左右どちらか回りがおかしい時にも、ラダーの取付部分に問題がある場合が多いです。ラダーの取付部分に問題ある場合には、大工事になるのであまりお勧めできません。
しっかり立つべきものがしっかり立っているか
しっかり立つべきものと言えば、ヨットではやはりマストです。マストはリギン類の支えによって立っています。ヨットによってマストの立て方は2種類あり、オンデッキマスト(デッキの上に載った状態)で立っているマストとスルーデッキマスト(デッキを貫通して船底のキールまで到達して固定されている状態)のマストがあります。どちらが良いと言うことは特にありませんが、陸送や船積みで輸出入する際にマストを外した状態で輸送するので作業性の良いオンデッキタイプが最近は主流のようです。オンデッキでもスルーでも、リギン類で前後左右からデッキに引っ張られることで立つことができています。スルーデッキの場合にはリギンを外してもマストが倒れることは無いかもしれませんが、セイルが風を受けた時にマストだけでは耐えられないというわけです。
マスト
マストを揺さぶってみて、デッキの付け根にガタつき等が無いか確認します。また、マストにステップやウインチなどの付属物が付いている場合には、ガタつきが無いか、電蝕や錆が大きく出てないか確認します。更にマストの表面をよく見て、塗装仕上げの場合には塗装の浮きや気泡のような膨らみがが無いか確認します。塗装の浮きや膨らみは、マストが内部で錆たり電蝕している恐れが大きいです。
スタンディングリギン
スタンディングリギンはマストを支えているワイヤーの事です。ワイヤーはマストに負荷が掛かることで少しずつ伸びてきます。伸びることによってワイヤーが緩んできますので、その場合にはワイヤーの下側に緩みを締め込むためのターンバックルが付いていますので回して締め込みますが、この締め込みの余地がかなり少なくなっているようなら、スタンディングリギン自体を交換する時期に入っています。また、ワイヤーにスラント(細いワイヤー撚って太いワイヤーができていますが、その細いワイヤーをスラントと言います)が破断している部分が無いかも確認が必要です。スラントの破断が始まっていれば、ワイヤー全体の交換時期です。
スプレッダー
マストから羽根のように横に突き出しているのがスプレッダーです。スプレッダーはマストにボルトで固定されていますが、スタンディングリギンを揺さぶってみて、スプレッダーにガタつきやブレが出ていないか確認します。
マストヘッド
マストの頭頂部のことをマストヘッドと言います。マストヘッド上には風見や風向風速計のセンサー、アンテナ等が立てられいます。目視確認になりますが、風見やセンサーが適正に動いているか、アンテナがキチンと立っているかを確認します。
固定されているべきものがしっかり付いているか
各種艤装品はデッキ上に固定されています。これらの艤装品にガタつきが無いか確認します。
パルピット
ヨットの前後に柵のようなものが付いていますが、これをパルピットと言います。前側をバウパルピット、後ろ側をスタンパルピットと呼びます。これらにガタつきが無いか確認します。
スタンション、ライフライン
スタンションは前後のパルピットの間にライフライン(柵の代わりのワイヤー)が張られていますが、その途中にある支柱のことです。スタンションはある程度ガタつきが出るのですが、根元が錆てガタつきが大くきなったり、折れそうになっていたりする場合があります。また、ライフラインが劣化している場合には交換が必要です。
その他デッキ上に付いているもの全般
デッキ上に取り付けてあるもの全てに対して言えることですが、ガタつきや破損、電蝕等が無いかを確認します。
デッキ上を歩いてみて軋みが無いか
デッキ上を歩いてみてギシギシ軋むようであれば、デッキに問題がありFRPが内部で剥がれたり切れ始めているサインです。これを治すためには、デッキを切り取って新たにFRPを積層し直すしか方法がありませんので大工事になります。また、デッキ上にチーク材が貼ってある場合には、デッキ上のチークの浮きや剥がれ、目地の劣化の状態なども見ておくと良いでしょう。
ハルの周囲を見て変形している場所等が無いか確認する
ハルは船体の事ですが、周囲を見てみて、特に見た目の異常が無いかを目視で確認します。陸置きで保管されている艇の場合には、船底までを確認して、全体的に問題が無いか確認できます。また、バラストキールやスクリューなども同時に目視確認しましょう。係留保管されている場合には、船底は見えませんので、最終的に購入する際には必ず上架して最終的には船底部まで確認したうえで契約するようにしましょう。上架した結果、船底に問題があった場合には、申し込みがキャンセルできるように予め取り決めをしておくことをお勧めします。
セイルを開いてみる
セイルは開いてみなければ状態を見ることができません。破れがあるなんていうのは論外ですが、縫い目のほつれ等が無いか確認しておいた方が良いと思います。縫い目のほつれなどは、購入後にセイルを外して補修することもできます。
最後に
以上、挙げたもの以外にも、ロープ類やアンカーウェル(アンカーを収納する場所)、アンカー自体やチェーン、ウインドラス、コクピットロッカーなど、見る場所は非常に沢山あります。全てがパーフェクトな中古艇は殆ど無いと思いますが、以上の内容を確認して、大きな問題が無さそうであれば、外部は一先ずOKという事になります。あとは、次回のエンジンや電気系、設備関係の確認になります。非常に確認する項目が多いように思えますが、実際には艤装品の1つ1つを丁寧に確認してゆくだけのことですので、実際にヨットを見に行った際には、じっくりと確認されることをお勧めします。また、解らないことはオーナーや立会人(業者)にその都度確認を必ずすれば良いと思いますので、遠慮せずに何でも確認するようにしましょう。