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ヨットの土足問題について考えてみる

2020年は私たちにとって、本当に大変な年になってしまいました。今年の初め、対岸の火事程度に考えていた中国に端を発した新型コロナウイルス騒動は、火の粉どころか日本でも燃え広がってしまい、ついに外出自粛でヨットにも乗れないなんて日が来るなんて全く考えてもみない事態になってしまいました。しかし、幸運なことに、先進国であり経済大国でもある筈の私たち日本は、中国をはじめとするアメリカやEC圏に比べると、感染の拡大率は今のところ低い状態に抑えられているし、諸外国に比べればそれほど大きなパニックにもなっていない。これはひとえに日本人の国民性や生活習慣が大きく影響しているのだと思います。

一昔前の日本は高度経済成長と共に公害大国でもあった頃もあります。衛生面でも僕が子供の頃には害虫駆除の薬剤空中散布などが町でもあったような記憶もあります。しかし、僕の記憶の範囲では、日本では大きな疫病の流行もこれまで無かったし、大きな天災時にも疫病が蔓延することもなく、更に、公害についてもすっかり対策されて東京湾などはどうしようもない程に汚染されていたのに今や漁業が戻るほど環境は改善された状態に日本はなったと思います。

国民1人1人の環境意識が非常に高いとは言えない僕たち日本人ですが、国民性と言うのか、それとも問題解決能力というのか、公害大国であったなんて今や忘れてしまいそうになるほど日本の環境状態は良くなりました。衛生面においても日本人の昔からある生活スタイルが諸外国に比べて非常に清潔であることを外国に行くと気付かされます。そこには水が豊富で気にせず使えるからこそ、手洗いの習慣があるという背景が見えてきます。また、土足文化も日本にはありません。昔の日本人は土足で入って良い場所であっても靴を脱いでしまうことがあったくらいに、靴は汚れる場所、汚いものを上にあげない(中に入れない)という考え方があったことが大きいわけです。

今回のウイルス感染拡大が諸外国に比べて低く抑えることが出来ているのも、この日本人のDNAに植え付けられた衛生意識が大きく影響していると僕は思うのです。それが綺麗な場所では靴を脱いであがるという習慣です。家が安全な場所であるのは、外から余計なものを持ってあがらないからです。勿論、体や衣類にもウイルスは付くようですが、それよりも何よりも、最も汚れている筈の地面のものを家の部屋の中まで持ち込まない習慣があることこそが、この感染症拡大を何とか食い止めている最大の要因でもあるように思います。

ちょっと時節柄、今回のテーマからちょっと離れた話もしてしまいましたが、僕たち夫婦が最初にヨットに乗せて頂いたときですが、桟橋から乗り込もうとしたときに靴を脱いで乗ろうとしました。日本人ですから…。だって白いヨットに土足で上がるなんてヨットを汚してしまうって思ったんです。

さて、あなたならどうしますか?ということで、今回はヨットの土足問題について考えてみたいと思います。

先ずはヨットというものについて

土足の可否を考える前に、先ずはヨットという乗り物がどんなもので、どういう格好をするのが良いのかを考えてみる必要がありますので、それについて考えてみましょう。

ヨットという乗り物

そもそもヨットという乗り物がどういうものなのかを考えてみましょう。先ずは、小さなディンギーですが、キャビンは無く、安定感もあまりない乗り物です。海岸の波打ち際まで引いて行って海に乗り出す乗り物です。ディンギーはサーフィンなどと同じような感じですね。ディンギーでは幾ら艇体が大きくなっても必ず何処かで海に足を踏み入れたり、横転して(沈して)濡れてしまうシーンがあります。
それに対してセーリングクルーザー(以下、クルーザー)は、幾ら小型のクルーザーでもキャビンがあり、波打ち際まで自分で引っ張って行って海に入れて乗り出すなんて言うことはありません。船台に乗せて陸上保管しているクルーザーでも、リフターで海に下ろしてから乗り込んで海に出ます。海に出て、落ち着いた海の穏やかな日は船上で濡れると言うことは無いですが、ひとたび風が上がってきて(風力が増して)海が波立ってくると、幾ら大きなクルーザーでもデッキの上が波で洗われたり、潮を被ったり、大きくヒールして足元が不安定になったりします。クルーザーの中でも大型になればなるほど外洋へ出る能力が高くなり、荒れた海でも乗り切る能力が増しますから、ハードな濡れてしまうようなセーリングが多くなるということも言えます。

ヨットに乗るときの格好

先に書いたような乗り物であると考えると、その格好もおのずと変わってきますが、ディンギーの場合はヨットの中でもサーフィンと同じようなテイストの海辺のマリンスポーツですから、サーフィンならウエットスーツを着るように、ディンギーでも同じようにウエットスーツなどを着て乗ります。夏場はTシャツに水着を着てというように、着る物により温度調節するにしても、濡れること(海に入ってしまうこと)覚悟の服装になります。足元はと言うと基本的にはマリンブーツを履きます。ディンギーの場合には、セールの向きが変わるごとに体ごと移動します。艇内は凹凸もあるので、裸足で乗るわけにはゆきませんから、基本的にはマリンブーツなどの足を保護できるものを履きます。
では、セーリングクルーザー(以下、クルーザー)の場合にはどうなるかと言うと、海に入ってしまうということはありません。仮に海に入ってしまうということは、船から落水したと言うことですから海難事故になってしまいます。ですから、海に落ちることが前提の格好はしませんが、基本的には多少は濡れても良い格好をするのがクルーザーにおけるセーリング時の基本です。風が無く落ち着いた海ならば、濡れることも無い代わりにセーリングもできないわけですから、普通にエンジンを掛けてボートに乗っている感覚です。モーターボートは普段着で乗れますから、濡れることは特に意識しないと思いますが、無風時のクルーザーは正に同じと言えます。しかし、クルーザーの場合には風が上がってきて(風力が増してきて)セーリング状態に入ると、その状況は一変します。船体は大きくヒールして、海面は波立ちはじめ、風の中を疾走し始めるので、波に船体が当たって潮が飛んできたり、デッキ上を波が洗ったりすることもあります。こうなると幾ら大きなクルーザーと言えども、濡れてしまう事は大いにありますから、濡れても中まで染みないような上着やパンツを履くことになります。また、風も体温を奪い寒くなりますから、防風も考える必要が出てきます。そこで足元はと言うと、普段の靴では具合が悪いということは、こういうことから容易に想像がつくと思います。風が無く海が穏やかな時には、どんな格好をしていても問題ありませんが、一度本気モードのセーリングなれば、それなりの格好をしなくてはならないわけです。そこにはセーリング特有の状態であるヒール(船が傾く)して帆走することも含まれますから、足元は濡れたデッキ上でも踏ん張れる履物が必要になります。また、クルーザーのクルーなら、デッキに上がって前方でセーリング中に作業することもありますから、滑り易いデッキ上の作業でなるべくグリップ力のある踏ん張れるシューズが必要になります。コックピットから出ないにしても、やはり踏ん張れること、滑りにくいこと、そしてある程度濡れても大丈夫な履物が必要になります。

ヨットに乗るときの履物とは

ディンギーは基本的にはマリンブーツや上級者はセーリング用のシューズを履いていますが、セーリングクルーザー(以下、クルーザー)だとどうなるかと言うと、のんびりファンセーリングならば、ヒールもそこそこ、天気の良い日であまり波立っていなければ、普段着にスニーカーでも問題無いような気がします。しかし、本気モードでセーリングを楽しみたいなら、踏ん張れるシューズである必要はあるし、更に滑りにくい靴底のもの、更に多少は濡れることを覚悟したシューズが必要になります。僕たちの場合には、妻がラットを握って、僕がセールの調節をしますから、濡れたデッキ上に上がることもあるので、シューズはセーリング用のシューズを履いています。その理由はと言えば、グリップが全く普通のシューズと違うからです。
セーリングをしてきた6年の間に、いろんなシューズを履いてきたのですが、安心してデッキワークできるのは、やはりセーリング専用のシューズだと解ったのです。
例えば、デッキシューズはデッキ上で作業するためのシューズの筈ですが、踏ん張ると脱げてしまう。脱げるのが危ないので、ひも付きのスニーカーに換えてみたら、靴底が滑るし、靴底の色によってはデッキが汚れる。そこで、建築現場の職人さんが履く内装用のシューズなども試したりしたのですが、やはり濡れたデッキ上に最適なソールでは無いんですね。逆に最強は長靴です。しかし長靴は、とにかく蒸れるのです。つまり、セーリングの時の普段使いには向かないってことですね。
つまり、セーリングにきちんと向き合うなら、セーリング用のシューズを履き、荒天時や冬場はセーリングブーツや踏ん張ることができる長靴を履くのがベストということです。

さて本題の土足はアリかナシか?

以上のようなことから、土足って?って疑問がわいてくると思います。
結論から言えば、土足って? それは、出港時のことなのか、船上なのか、キャビン内なのか…と言うことになります。
また、セーリング時なのか、風が無い機走時なのか、荒天時なのか、と言うことも影響しますね。

ヨットの各部はどういう環境か?

ヨットと一言にいっても、そのヨット上の場所によって状況は異なります。
先ず、コックピットですが、セーリング中、最も安全な場所はコックピットです。多少、潮も被るし、風にもあたります。しかし、周囲が最も見えて身構えることもでき、たとえ自分がゲストとして乗船していても、スキッパーの傍にいて船の様子も全て見ることができる、最も安心できる場所です。
キャビン内は一見、最も安全そうに見えますが慣れないと、眠ることも、座っていることも難しい場所です。それは、ヒールするし、波を乗り越えたりと、室内は外が見えないので、いきなり上下左右に揺れ動くキャビン内は、ヨットに慣れた人でないと安全には過ごせない空間なのです。
デッキ上はどうかと言うと、波も無く適度に風があるときには、適度に風を抜きながらのんびりセーリングしている時には、バウやサイドデッキで足を海に投げ出して座っているととても気持ち良い場所です。しかし、風が上がってきて波立ってくると、デッキ上は最も危険な場所に変わります。波や潮がデッキ上にかかってスリッピーになります。これにヒールが加わると、ベテランのセーラーでもなかなかデッキ上で作業するのは嫌な場所になってしまいます。

土足を論じる時、何処に立ち入ることを言うのか?

セーリングクルーザーの場合、土足を論じるのは何処に土足で入って良い・悪いを論じるわけですが、キャビンに土足で入るということを特に言いたいのだと思いますが、それはそのヨットのオーナーの考え方次第だと思います。何故なら、綺麗なウッドの床に外を歩き回ってきた靴で入るのは、どうかと思います。更に、ソールを釘や鋲で止めているような革靴でキャビン内に入るのは確実に床を痛めますから避けるべきです。こんなことはあたりまえの話ではありますが、ピカピカに磨き上げられた木製床のキャビンに土足で入るということは、家で言えばピカピカのフローリング床のリビングに土足で入るようなものだからです。
また、キャビン内だけではありません。ヨットのデッキ上にも、外を歩き回ってきた靴でそのまま上がるのはどうかと思います。クルーザーにもよりますが、総チーク貼りのデッキだったりすると、手入れは大変ですから、オーナーのことを考えると汚れたままのソールで上がるのは気が引けてしまいます。

結論としてどうすれば良いか?

土足問題の結論ですが、先ずはそのヨットオーナーの考え方が最優先であることは間違いありません。しかし、ヨットオーナーの本音は、土足がダメなんて言って格好悪い思いをしたくないと考えて痩せ我慢しているオーナーも少なくないと思います。つまり、ヨットに乗る時には、ヨット用のシューズを持って行くくらいの気遣いはあった方が良いということだと思います。
更にキャビン内については、セーリング中に靴を脱いで靴下の状態でキャビン内を移動するのはとても危険です。靴を脱ぐなら裸足になって滑らないように気を付けるべきです。これはが、ヨット上だけの上履きなら、そのままで入っても良いと僕的には思います。何故なら、キャビン内は安全ではないからです。足ぶつけたりして怪我をされては、楽しい筈のセーリングも楽しくなくなってしまいます。
つまり、安全にクルーザー上で居るためには、 体育館でスポーツするときに履くような上履きを準備しておくことがベター だということです。
では、ベストな姿は何かと言うと、セーリングシューズ専用シューズに勝るものは無いというわけです。

最後に… ヨット上で裸足もナンセンス

我家のMALU号では、ゲストが乗る時には上履きを準備してもらうか、ソールを綺麗に拭いたスニーカーを準備してもらうようにしています。その理由は、やはりそれが最も安全でクリーンだからです。キャビン内は僕たち夫婦にとって第二の家のリビングですから、停泊時にキャビンに入るなば靴を脱いでもらいます。そのためにキャビンに下りた場所には靴を脱ぐスペースのマットを敷いています。しかし、セーリング中にキャビンに下りたい場合には、たとえ濡れていたとしてもシューズのままで降りて貰っています。脱ぐと危ないからです。

キャビン入口のマット上履きの種類は、スポーツシューズであっても濡れたデッキやキャビンで滑るソールはNGと言っています。また、幾ら綺麗に拭いたシューズでも目が細かくてソールの凹凸の奥に砂が入り込んでいるようなシューズはキャビンの床がサンディングされてしまうので、上履きにして欲しいということハッキリと言います。
つまり、土足禁止(外を歩いてきた靴のままは乗るものNG)は勿論のこと、裸足も危ないのでNGと言っています。
素足でデッキ上の艤装品類に足をぶつけて痛い思いをした人は少なくありません。ましてや怪我なんかされた時には、折角のセーリングが台無しですから、セーリングするなら安全のために上履きは絶対に必須なのです。素足が気持ち良い時期もあります。素足が許されるのも、停泊時だけです。

そして、全ての人に知って欲しいのは、ヨットのキャビンは、そのオーナーたちの第2の我家であり、第2のリビングルームであるということです。外を歩いてきて、何を踏んだか解らない靴(これを土足と言うのです)で人の家に上がり込む人はいません。また、そんな靴で船内に入られたら衛生的にも良くありません。「土足でもいいよ」って言っているヨットオーナーの多くは痩せ我慢して言っている可能性が大いにあります。額面通りに受け取らないで、ちょっと気遣ってあげて欲しいと思います。そのためには、体育館でスポーツするような上履きくらいは準備してあげて欲しいと思います。

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