ヨット(セーリングクルーザー)にはギャレー(小さなキッチン)があり、シンクに水道の蛇口が付いています。この蛇口、清水タンクにつながっていて、ポンプの電源を入れておくと蛇口を開くと水がタンクから汲み上げられて出てきます。我がMALU号にも蛇口と清水タンク300リッターがついていて、一応ギャレーで水仕事ができるようになっています。タンクへの水の補給はデッキ上にあるフィラーに桟橋から引いてきたホースを突っこんで水道水を補給しています。

シンクに水道があるのはやっぱり便利なものです。キャビンの中での生活には水は欠かせません。飲まずとも水仕事がキャビン内で出来るのは便利です。更に、キャビン内のトイレも停泊中は使えませんが、セーリング中に使ったトイレの後始末には、必ず清水を便器に入れて洗浄しておくことで、匂いを防ぐことが出来ます。トイレの手洗いに付いている蛇口はシャワーヘッドとして引き出して使える物なので、トイレの便器の中の洗浄でタンクの水を使って洗浄しています。(※航海中の排出用には海水を使います)

さて、この清水タンクに入っている水ですが、「ヨットに積んでいる水は痛まないから大丈夫…」なんて話をよく聞きますが、そんな話を聞いていても飲むのはちょっと気が引けます。なので、僕たち夫婦の場合には、飲用の水はペットボトルに入っている買ってきた水か、出港前にペットボトルに水道から汲んでおいた水を使い、清水タンクの水は生活用水として使い分けています。

WATER
しかし、ペットボトルの水もどれほどもつのか? 船に積んでおけば大丈夫なのか? いろいろと考えてしまいます。
そこで今回は、ヨットに積んだ水は腐らない?をテーマに、ヨットに積んだ水がどこまで大丈夫なのかを調べてみたいと思います。

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船に積んだ水が腐らないという迷信

「船に積んだ水は腐らない」と、いろいろなところで耳にします。しかし、本当に船に積んだ水は腐らないのでしょうか?
船に積んだ水が腐らないと言っている人に、その理由を聞いてみると、多くの人が「船に積んだ水は常に波によって揺り動かされているから」だと言います。確かに僕たちの乗っているようなヨットなら停泊していても常に波の影響を受けて、水も揺れています。また、大型船の場合には常に航行しているので、これも常に水は揺り動かされているということは言えますが、しかし、それは本当なのでしょうか?

科学的に考えてみる

水が常に揺り動かされていたら本当に腐らないのでしょうか?
そもそも、水=H2O は無機物なので腐るということが無い物質です。一般的に言うところの「水が腐るという状態」になるためには、水の中に水以外の有機物質が混ざることで起きます。腐るとは、腐敗または発酵した状態を指す言葉ですから水以外の物質が腐敗または発酵すれば、それは腐ったということになるし、腐敗または発酵が起きなければ腐らなかったということです。船の揺れは単なる攪拌に過ぎないですから、腐敗や発酵が起きない理由にはなりません。
物が腐るためには、水、空気、栄養分、細菌の4つが必要となります。つまり、水に空気と栄養分、細菌が混ざっていれば、自然に水は腐るわけです。しかし、環境的な要因で細菌が活発に活動できない温度であったり、空気の量が極端に少なく細菌が生育できない場合には、腐敗や発酵は起きないというわけです。

大航海時代に水は腐らなかったのか?

揺れる船に水を積んで腐らないのであれば、大航海時代の船乗りは水で苦労はしなかった筈です。しかし、大航海時代には、水は木の樽に詰めるしか運ぶ方法はありませんでした。また、消毒をする技術が確立されていたわけでもありませんし、樽の中に空気をできるだけ入れずに水を詰める方法も無かったわけです。これでは水を腐らせないなんてことは不可能です。
また、水が長期間もたなかったことは、航海記などでも書かれています。飲める水を長期間保存することが出来なかったから、代わりに腐りにくい酒を積んでいたという話は沢山あります。更に、アルコール度数が低いと時間が経つと腐ってしまうことから、度数の高い酒を積んでいたとも言われています。つまり、大航海時代にも船に積んだ水は腐っていたのです。

流れる水は腐らず

「流れる水は腐らず」ということわざがあります。これを誤解して「動いている水は腐らない」と考える人がいるようです。しかし、これは間違いです。「流れる水は腐らず」のことわざの由来は、「水たまりの水や淀んでいる水とは違い、いつも流れている水は腐ることがない」という事象を例えて言っています。確かに川の水は常に流れてるので腐ることはありません。しかし、川の水が流れるのは、新たに新鮮な水が川上から絶え間なく供給されているからこそです。つまり、水道の水のように蛇口をひねれば新鮮な水がどんどん出てきている状態を指しているのです。単にどんどんと下水に流れて行くので、その場で腐る暇がないだけのことです。
つまり、水を揺り動かしていれば腐らないということを言っているわけではありません。

水が腐るメカニズムを理解する

では、水が腐るのはどうしてかということです。
コップに入れた水道水はいつか必ず腐りますが、これは何故でしょうか?
水道水は大きな不純物が取り除かれ、カルキ(塩素)によって殺菌されています。つまり、浄水場で水道水がつくられた段階では、腐りにくい水です。また、東京や沖縄などは、高度浄水システムを使った水道水ですので、水道水の中の有機物の量は殆どありません。つまり、完全に近い形でろ過された水に塩素を添加して送水しています。しかし、浄水場から送水管を経由して家屋等の建物の水道管を通って送り出される水道水には、微量の細菌を含む有機物が混入し蛇口から出てきます。しかし、これを直ぐにコップに注いで飲んでも人体に影響を与えることが無いというだけのことなのです。しかし、コップに入れたままで放置したらどうでしょうか?
空気中にも細菌や有機物が浮遊しています。コップにも細菌や有機物が付着しています。それらが水に溶けだし、更に常温の状態になりコップには蓋も無いことから多くの空気と触れて細菌は活発になります。そして、細菌の活動が活発になることで水に含まれる有機物を餌にして更に活発になりやがて腐敗や発酵が始まるわけです。これが水が腐るメカニズムです。

ヨットに水を積んで腐らせない方法

ここまで書けば、勘のいい方ならヨットにどういう形で水を保管すれば良いか解りますね。
水道水を積むなら、できるだけ大量に積むべきです。何故なら、殺菌成分は水道水中にも残っているからです。更に、清水タンク内の水の入っていない空間をできるだけ無くす。つまり、タンク内部の空気量をできるだけ少なくすることです。勿論、清水タンク内は除菌されていること、細菌の餌となるような有機物がタンクに混入しないことです。しかし、残念ながらヨットのタンクには空気抜き配管が外部に向けてあることから、空気が潤沢に循環する環境で、この空気抜きの配管穴に虫が入ったりすることもあるため、残念ながらタンクに水を入れても密閉状態であるとは言えません。
しかし、ここで言えることは、ヨットの清水タンクの水は、そのまま飲むには少し不安であるということです。また、腐らせない方法は今のところありません。時間が経てばヨットの清水タンクの水でも腐ります。

ヨットの清水タンクの水を飲みたい場合

どしても清水タンクの水を飲みたいなら、タンクに入れて出来るだけ早めに飲むか、浄水器を付けて水が腐る前なら飲めるようになると思います。
また、浄水器もタイプによって飲めるようにする水の汚染度は変わります。いわゆる腐った水でも飲めるようにするには、RO式の浄水器を導入すれば、ほぼすべての不純物を除去して、H2Oの状態に近い水を取り出し飲むことが出来ます。
浄水器の設置をせず、清水タンクの水を飲む場合には、タンクに水を充填して、あまり時間が経っていないのであれば煮沸してから飲むことで安心して飲むことができます。
しかし、長期間タンクに溜め置いた水は、飲まない方が良いとしかここでは言えません。

ヨットに飲み水をどのように貯蔵するか

せっかく清水タンクがあるのに、その水は飲めないのは残念と思うかもしれません。しかし、今のところそのまま安心して飲める方法はありません。では、ヨットに水を貯蔵するためにはどうすればよいのでしょうか? 最も長期間、安全に貯蔵できる方法は「ペットボトルの水」です。
ペットボトルの水は、飲用として作られた水で、更にボトルを未開封の状態であれば、腐る原因となる細菌や細菌の餌となる有機物の混入も避けることができ、空気には触れていませんから、腐る原因がありません。これほど安定した状態の保存方法は他にはありません。
しかし、売っているペットボトルの水には賞味期限が設定されています。それは何故でしょうか?

ペットボトルの水は賞味期限を超えても飲める

実は、ペットボトルの水は賞味期限を過ぎても飲めるということが説明されている大手新聞社の記事があります。賞味期限がある理由についても、そこで述べられています。
賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(2018年7月3日付 産経新聞)
この記事によると「ペットボトルの水は、ほとんどが加熱や濾過(ろか)によって雑菌などが取り除かれ、更に殺菌されているので、水は何年たっても腐らない。適正に保存され未開封の状態ならば、賞味期限をかなり過ぎたものでも安全性に問題ない」と書かれています。
これはこれまでに上で書いてきたことからも納得できる内容です。
ペットボトルの水には、たまに除菌や殺菌していない完全な天然水をそのままボトリングしているものもあります。こういう水は新鮮なうちに飲むもので貯蔵用には向いていません。ヨットに積んでもこれは賞味期限内に飲むべきですね、しかし、除菌、殺菌をしている通常の清涼飲料水扱いの水については、賞味期限を超えても健康に害を及ぼすものではありません。つまり十分に飲める水だということです。
では何故、ペットボトルの水に賞味期限の表示があるのか? それはペットボトルの特性で水が蒸発して減ってゆくからだそうです。減った水を販売した場合、法に触れることから賞味期限内の水しか流通販売させないように賞味期限と言う形で販売制限をしているそうです。詳しくは、産経の記事を参照して頂くとして、ですから賞味期限に関わらずペットボトルの水は長期保存が可能だというわけです。

ペットボトルの水の適切な保存方法

ペットボトルは通気性があると産経の記事には書かれています。ペットボトルから水は蒸発するということは、「におい」がうつる可能性があるので、近くに強いにおいの持つものがある場所は避けるべきです。また、「直射日光や極端に温度の高い場所」も避けるべきです。ヨットのキャビン内なら、特に問題無さそうですね。温度については、できるだけ船底に接する場所への収納が高温になりにくく良さそうですね。

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最後に… 空きペットボトルに入れた水道水

ヨットの水について僕的には一応これで納得です。
僕たち夫婦の場合には冒頭にも書いたとおり、清水タンクの水は生活用水と割り切って使ってますから、口に含むことはありません。今では、ヨットに着いたら、先ずは空きペットボトルに桟橋の水道から水を汲みます。それを使ってお茶を淹れたり、歯磨きの時の口をすすぐのに使ったりしています。デイセーリングでも、その日に使う位なら、その水で充分です。
一応、緊急用の水は未開封のペットボトルの水(2リットル)を10本くらい別に積んでいます。まあ、気分の問題で一応積んであると言う感じです。
飲み物は夏場だとジュースや麦茶、ビール、酎ハイなどなど、冷蔵庫に満載で常に冷やしていますから、飲み物に困ることはありません。減ったら買って冷蔵庫に入れておけば良いわけですから。冬場は冷たいのもを飲む量が減りますから、お湯を沸かして暖かい飲み物を入れて飲むという具合になってきます。その時には、空きペットボトルに入れた水ですね。新しい未開封のペットボトルの水を使うのは、そろそろ入れ換えようかなって思った時くらいです。以前は、飲用の水が全て買ってきたペットボトルの水の時もありましたけれど、その日に使う位なら、空きペットボトルに入れた水で充分だって気付いたんです。
ロングクルーズに出る時などは、できるだけ多くの水を積み込んでおく必要があるかと思いますが、最も安全なのは未開封の小分けになったペットボトルの水なら、ロスなく使えると思います。尚、ペットボトルに口を直接つけて飲んだ水は、雑菌が大量に水の中に入ります。これを夏の暑い日に放置すると、雑菌が増殖してしまいますので、くれぐれもご注意を…。

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