ヨットと港は切っても切れない関係にあるのは言うまでもありません。日本は周囲を海に囲まれていることから、全国各地に大小様々な港が存在します。しかし、その全ての港にヨットが入れるわけではありません。

大型船用の港はそもそも大型船用にデザインされていて、物凄く高い岸壁に小さなヨットを着けても梯子を掛けてよじ登らないと上陸できないほど岸壁は高く乗り降りしにくいです。また、遊覧船等が発着する桟橋のある港もあちこちにありますが、そこは定期船や営業船など、人を運んだり、観光目的で造られた港ですから、これもヨットのような遊びの船を着けることはできません。そして、ヨットと同じような小型船が入る港としてよく知られているのが漁港ですが、これも多くの漁港はヨットを含めたプレジャーボートの受け入れをしていないのが実情です。

では、ヨットは何処の港を使うことができるの?と思ってしまいますね。

そこで今回は、日本の港事情について書いてみたいと思います。

1. 港の種類

先ず最初に、港にはどんな種類があるのかについて整理してみたいと思います。

日本には全国に4000箇所以上の港があるといわれています。港は大きさと重要度によって、以下のように分類されています。

■国際戦略港湾 国内輸送と国際輸送の両面で高い機能の最重要とされる5港(東京、横浜、川崎、大阪、神戸)で、超大型船が出入りできる岸壁を持っています。

■国際拠点港湾 上の5港の次のランクで、貿易面で重要度の高い18港(苫小牧、根室、仙台塩釜、新潟、伏木富山、千葉、清水、名古屋、四日市、和歌山、泉州北、姫路、水島、広島、徳山下松、下関、北九州、博多)で、経済活動に大きな影響がある港とされています。

■重要港湾 上の2つの港湾の次のランクで、国内輸送の拠点として102港が指定されており、主に工業地帯の近くに位置する港です。

■地方港湾 地域の経済活動に必要な港として、全国に808港が指定されています。この港は地方公共団体が管理しています。

以上が港湾と言われる、主に大型商船が出入りする港なります。

■漁港 全国に3000港近くあります。漁港と言っても大小の違いなど5種類に分けらており、第1種:2220港(地元の漁業を主とする)、第2種:497港(1種より利用範囲が広い)、第3種:100港(利用範囲が全国的なもの)、特定第3種:13港(第3種のうち水産業の振興上で特に重要なもの:八戸、塩釜、気仙沼、石巻、銚子、三崎、焼津、境、浜田、下関、博多、長崎、枕崎)、第4種:101港(離島やその他周辺地域の漁場開発や漁船の避難上特に必要なもの)があります。

■マリーナ、ヨットハーバー及び観光港 マリーナやヨットハーバーはヨットを含むプレジャーボート専用の小型船を係留するための港で、観光港は読んで字のごとく、観光船のための港です。マリーナやヨットハーバーは海の駅などに指定されているケースが多く、現在のところ179駅(港)あります。

■避難港 地方港湾や漁港などと兼用されている場合もありますが、小型船が暴風雨や台風、しけなどの悪天候で危険な状態になった場合や、事故などを避けるために一時的に避難できる港のことを指し、全国に35箇所指定されています。

港湾と下の3種類の用途別の港を横並びに書くのは、ちょっと違うのですが、港湾は大型船の港と言うように理解してもらうと分かり易いと思いますが、ヨットが利用することができる港は全国に4000港もあるにも関わらず、気兼ねなく使える港は179港しかありません。残念ながら、同じような大きさの漁船が出入りする漁港については全国に3000港もあるにも関わらず残念ながらその全てをヨットが使えるわけではないというのが実態なのです。

2. 漁港が全国に整備された経緯

ヨット乗りにとって物凄く魅力的な場所にある漁港ですが、先ずは漁港についての事情を書いておきたいと思います。
日本は海に囲まれた国ですから海沿いの地域は当然のことながら魚や海産物を取る、そして漁業を生業とする人が海辺に沢山できるのは容易に想像できます。しかし、漁業は漁業紛争の歴史でもあるのです。漁場をめぐって漁民同士が激しい対立を起こし暴力沙汰になることも少なくなかったことや、その後には効率的な漁法の出現などで乱獲を招いたりもしたのです。そして、誰もが勝手に漁ができるという公共性を優先すると水産資源の枯渇を招きかねないということから、江戸時代に「磯は地付き、沖は入会」(磯は根付とか地付とも呼ばれ)その漁業集落専用の漁場とされ、沖は入会「いりあい」と呼ばれ、原則地域に関係なく誰もが操業してよい漁場というルールづくりを行って漁民同士が互いに譲り合って海を利用してきた歴史があるのです。その考え方が現代にも受け継がれており、漁港が全国に整備されたのは浜辺全体を漁師が自由に使うのではなく、漁民の仕事場を整備し拠点化すると共に漁業の近代化により漁船が増えることで港の整備が急務となったわけです。そして、海や海岸線は漁民だけのものではなく地域のみんなのものとして海岸線の整備がすすめられ、漁民のための漁港の整備も進んだわけです。つまり漁港は漁民の仕事場として整備された背景から、当然のこととして一般には開かれなかったわけです。

地域の漁民は先祖代々その地域の海や海岸線を使って自由に漁をしていたわけですが、漁港を整備することで漁民の仕事場を限定し集約化したのです。漁民にとっては、施設整備を国や地域の税金で行ったとしても、そこに押し込められたという気持ちもあるわけですから、一般人の船がそこに入ってくることを良しとはできない心情は多少なりとも理解できると思います。

3. 漁港にも変化が起きている

地域によっては、ヨットやボートに開かれた漁港もあります。しかし、全国的な視野でみると、ヨットやボートの多い地域で漁港に入港できないなどの話をよく聞きます。それは先に書いたような経緯があるからです。逆にヨットやボートの少ない地域では、気軽に受け入れてくれるところもあります。わざわざこんな所までよく来たねって、言ってくれる漁師さんもいます。逆に地域によっては、押し込められてしまったと言う遺恨がいまだに残っていて、一般の船を頑なに受け入れてくれない漁港があったり、仕事場である港に邪魔でしか無いプレジャーボートの存在は様々なトラブルの元凶ともあることから、それを回避するために受け入れない漁港も少なくありません。

港
海の駅 沼津戸田港

しかし、近年の社会構造の変化や漁業者の減少、地域の過疎化、海(環境)の変化などから、漁業者が減少し、かつて漁船であふれかえっていた漁港も利用自体が減ってしまった地域もあります。更に漁業の近代化や変化から漁港に空きができているということもあり、平成9年には水産庁長官から都道府県知事あてに「漁港における漁船以外の船舶の利用について」という漁港と地域の活性化策としてプレジャーボートの受け入れを前向きかつ適正に行うように通達が出されるなど、徐々に漁港が開かれつつあります。更に、フィッシャリーナや海の駅など、徐々にではありますがヨットやボートに向けた施設整備が徐々にではありますが進みつつもあります。

4.ヨットやボートの港

最近は見られなくなってきましたが、かつてヨットやボート(プレジャーボート)が河川や海岸線のあちこちに無法に係留されているという時代がありました。戦後の復興期から経済成長期には海のレジャーを楽しむ人が爆発的に増え、一般の人が船を持ち海で遊ぶということが流行した時期がありました。そうすると、増える船を係留する施設が必要となりますが、漁港の整備も追いつかないのですからプレジャー用に港を整備しようということ自体が難しく、プレジャー用の港の整備はもっぱら民間頼りでしかありませんでした。そして溢れるプレジャー船を受入れる港が無く、船が様々な港以外の岸壁で無法地帯となっている場所が全国各地にできてしまいました。漁港に勝手に係留すると言った人も出てくる中で、様々な場所でトラブルなどが発生し、更に乗らなくなった船が放置されるという事態になったわけです。こういった経緯で国や地方自治体は、あちこちに無法に係留される船を集約するべく公共マリーナの開発が始まったわけです。それだけ船遊びしようという人が戦後復興が進んだ経済成長期の日本には多かったし、気軽に船を購入していたということもあります。

現在の大型マリーナやヨットハーバーは公共の様々な岸辺に不法に係留する問題を解決するために整備されたプレジャーボート専用の港として開発された港です。そして経済成長の中でマリンレジャーの多様化によりリゾート施設として開発されたものや地域の有志でヨットハーバーとして自己管理で開設されたもの、漁港の一部を一般利用できるようにしたフィッシャリーナなど様々です。しかし残念なことに、プレジャーボート用の港は事業としての採算性の問題から働く船の係留費とは比べ物にならないほど高額な利用料となっています。これは世界的にも都市やリゾートにある港の係留費は高いのは経済原理ですから致し方ないことではあります。(利用したい人が多い地域は高額化する)そして、そんな港に船で訪れ一時的に利用する場合でも高額なのも致し方ないことではありますね。しかし、日本と海外の大きな違いは日本ではプレジャーボートが気軽に着けられる一時利用の岸壁が非常に少ないということです。何故なら、働く船のためにのみ整備されてきた港湾や漁港の歴史があるからです。海外では遊びも大切とされる中でビジネスが成り立っていますが、遊びよりも仕事の方が大切という日本人の気質というか価値観がプレジャーボート向けの岸壁利用を遅らせているのかもしれません。また、小型船にとって波や風が入らない快適な入り江の多くが、漁港や港湾として開発されてしまったことなどで、プレジャーに適した港をつくることができる場所が少ないというのもあります。

5.プレジャー用の港である海の駅

現在、全国に海の駅は179駅(2024年7月現在)あります。  https://www.umi-eki.jp/

”「海の駅」は、誰でも、気軽に、安心して、楽しめる施設であり、車で陸から、プレジャーボートで海から、どちらからでもアプローチできるマリンレジャー拠点です。来訪者のための一時係留設備(ビジターバース)、トイレ、マリンレジャーに関する情報提供のための施設のほか、ホテルやレストラン等の施設を併設したところもあり、地域観光の足がかりとしても利用されています。また、レンタルボート等を利用したクルージングや、各種マリンイベントの開催、朝市による海産物等の販売、地元漁船等を活用した漁業体験など、地域の特性を活かした取り組みが実施されています。”(引用:国土交通省サイトより)

陸に「道の駅」という施設が増えていますが、その海版ともいえるのが「海の駅」です。「道の駅」はドライブのついでに立ち寄る施設として大型パーキングに地域の物産を販売する商業施設や食堂などを備えたところが多いですが、「海の駅」の場合には既存のヨットハーバーやマリーナの他、先に書いたように漁港の有効利用などによってプレジャーボートが遊びに来れる港に開放しているなど、様々なパターンがあります。近年の釣りブームで海釣り、それも船を使って釣りに出る人が増え、レンタルボートで楽しむ人も増加傾向にあります。当然、自分の船を持つ人も増え、徐々に海の駅が増え始めています。我々ヨット乗りにとっては、こういった気軽に行くことができる港が整備されることは、喜ぶべきことですね。

最後に… 今後の海の駅の課題

ヨット(セーリングクルーザー)は、長距離航海するためのプレジャーボートであり、旅をするための船です。そんなヨットにとって、立ち寄ることができる港が多ければ多いほど、旅の途中で立ち寄ることができるポイントが増え、旅の幅が広がります。港に入ってしばらく滞在して、港の周囲だけでなく、そこから陸路で足を延ばして景勝地や観光地に行くという旅の楽しみ方もあります。疲れたら港に入って船で寝泊まりすることもできます。近場の港に遊びに行くだけでも、ちょっとした旅気分を味わうこともできます。

近年、既存の港を海の駅にしようという取り組みが増えてきています。しかし、既存の港を海の駅にするとき、その管理をどうするのか?係留費用の徴収をどうするのか?など様々な問題があると聞きます。しかし、IOT時代ですから昔のようなリアルに人がいつも居なければならないという時代もないような気がします。そして、港に訪れる利用者のシーマンシップやモラルがきちんとしていれば、無人の海の駅ができても良いような気がします。海の駅に舫を取ったら、そこの看板に書かれている連絡先に電話でもいいし、スマホをQRコードに翳すと利用登録できると言った具合にできるのではないでしょうか?そして、燃料が欲しければ、ここへ電話、水が欲しければ、ネットでボタンを押せば水が出せるとか、トイレやシャワーだって無人でも運営できるような気がします。そんな海の駅が増えてゆけば、楽しみが増えそうですね。

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