自分たちのヨットを持ち2回目の冬を迎えようとしている。週末や休みの日の艇内暮らしも夜から朝にかけて冷え込むようになり、ついに気温は一桁台、小さなセラミックヒーターをバウバースから引っ張り出し動かすようになってきた。秋から冬に掛けての駿河湾は最高に綺麗。何と言っても空気が乾き富士山が早朝からくっきり見えるようになる。東京からも富士山が見える場所はあるけれど、清水港のホームポートに居ると、この時期は朝陽が昇り陽が暮れるまで富士山の姿をいつでも見ることができるのは、何だか日本人で良かったという気持ちにさせられるのと同時に、ここにヨットを置くことにして良かったという気にさせられる。
徐々に冬の足音が聞こえるようになると、西から北の風が吹き始め、海が荒れ始める。夜通し波立つ海面の水が船底にあたり、艇内は騒々しくなるが、そんな波音を聞きながらバースで眠れるようになれば、何となくヨットマンとして一人前になったような気がする。(妻はどんなところで直ぐに眠りに落ちるけど…)

そんな週末のハーバー暮らしをする中、ヨットハーバーやマリーナでのマナーや気遣いについて、いろいろと気付かされることも少なくないので、今回はそのあたりの話を纏めてみたいと思います。

そもそもヨットハーバーやマリーナってどんなところ?

本題に入る前にハーバーは港だけれど、ヨットハーバーやマリーナは単なる港ではない。基本的にプレジャーボートと呼ばれる遊びのための船を預けて置くための施設であって、そこにはプロの漁船や営業船は基本的には居ない。(※例外的に営業船を置いているところもあります。)おもいっきりプロの漁船に見える船が係留してあったって、それは遊び用の釣船で誰かが個人的にその船で釣りを楽しんでいる。だから、その施設を利用している人は、それらの船のオーナーまたは関係者(ゲストやクルー)だったりする。つまり、ヨットハーバーやマリーナ―は、ヨットやボートを使って楽しむ人のための施設です。

そこにはいろいろな楽しみ方の人がいる

ヨットハーバーやマリーナと言っても、単にヨットやボートに乗り降りするためにだけ、そこに来ているわけではない。人によっては出港しなくてもキャビンでのんびりしに来たという人も居れば、僕たち夫婦のような週末住人から船に殆ど住んでいるような人たちまで居たりもする。夜明け前から出港準備し遠出する人や釣りに出掛ける人、自分の船のメンテナンスに来ている人なども居る。そこにはまさにいろいろな楽しみ方の人たちが集ってきている。

いろいろな楽しみ方をしに来ている人が居るのだから、来ている人すべてが楽しく過ごせるようにするために、そこにはマナーがあり気遣いが必要なことは言うまでもない。自分だけが楽しければ良いというような自己中心的な考え方はそもそもシーマンシップに反する。

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最も大切なこと、それは「安全」

マナーや気遣いを考えるとき、最も意識しなければならないのは「安全」だ。楽しみに来た筈なのに、怪我や事故に合ってしまっては台無しだ。利用者の全てが安全を念頭においた利用を心掛けなければならない。安全を保つためには、安全に対するマナーや気遣いが必要となる。

桟橋や艇置場内では走らない

子供でない限り、走るということは、何か急ぎの要件があるからこそ走るだと思う。しかし、桟橋上や艇置場内で走ることは、周囲に危険を及ぼす。走っている本人は急ぎの用件しか頭にないのだから、当然周囲を気遣ってはいられない。それが桟橋上なら、ぶつかったり躓いたりすることで落水の危険性が増すし、他人となら尚更だ。入ってきた船の舳先のオーバーハングが急に桟橋上に出てくることだって考えられる。陸置きの艇置場なら、移動させようと作業していることもあれば、船台の陰から人や車両が出てくるかもしれない。落ち着いて周囲に注意を払いながら歩くことは、自分のみならず周囲の人たちの安全をも気遣いすることにもなる。

自分の船の上以外にみだりにものを置かない

桟橋の上や艇置場に物を置いていると、それに躓いたり、引っ掛けたりと安全性が極端に損なわれる。そこが桟橋の上なら更に危険性は増大する。落水してしまうと桟橋に上がるのは容易ではない。物を置くのは「物置」または「自分の船の上」でそれ以外の場所にみだりにものを置かないことがマナーであり他者への安全に対する気遣いとなる。

舫綱は船上で長さを調整し桟橋に転がしておかない

舫綱(係留ロープ)は船上のクリートで長さを調整し余りは船上にある状態にするのがベストだと、とあるオールドソルトから僕は習った。クリートして余ったロープの端を桟橋上に転がしておくと、そのロープを踏んでロープが転がり(係留ロープは太いものが多いので踏むと転がる)、こけてしまったり、桟橋上から落水の危険さえある。
ホームポートでの舫綱(係留ロープ)は、常に同じポジションに係留するのだから必要以上に長いものを使う必要はない。どうしても長いものを使う必要があるのなら、桟橋側には余らせないようにクリートし、船側のクリートで舫の長さを調整すれば、桟橋上にロープの余りを転がしておくことは無くなる。
また、どうしても桟橋側に伸ばして置きたい場合には、地面にロールしてマット状にしておき、踏んでしまっても転がらないようにしておくくらいの気遣いは必要だ。

風や波のある時の着岸は陸側が手伝う

幾ら慣れたホームポートとは言えども、風や波のある時の着岸は思い通りに行かないことがある。そんな時、桟橋側に誰か舫を取ってくれる人が居るだけで着岸時の安全性は大きく増す。
陸側の近くにいる人が着岸を手助けするのはシーマンシップの基本中の「き」でもある。

通路に船首を突き出させない

これは係留型に限られる話だけれど、櫛型桟橋で船首のオーバーハングが大きい艇やバウスプリットが長く突き出している艇が通路にまではみ出して係留しているのをよく見かける。これはとても危険だ。桟橋の通路はパブリックスペースで、何か作業などをしていないなら、船首先端は桟橋から離して係留しなければならない。理由は推して知るべしだと思う。

ハーバー内の航行はデッドスロー

デッドスローとは船舶用語で「極微速」のことを指す言葉だ。極微速によって何が重要なのかと言うと、船は走ると引き波が起きる、この引き波を立てずに走るのがデッドスローだ。速く走れば走る程、引き波は大きくなる。引き波を立てると、浮き桟橋のみならず係留している船も大きくロールしたりピッチングする。仮にマストに登ってメンテナンスしている人が居たとする、引き波を立てて通過しようものなら、その状態はとてつもなく危険だ。桟橋を歩いていたとする。桟橋には橋のように柵や手すりは無い、大きな引き波を立て通過すれば、桟橋を歩いている人に危険が及ぶ。ヨットのコックピットで熱いコーヒーを飲もうとしている人が居たとする。他艇の引き波で大きくピッチングしたりローリングすれば火傷は免れない。
デッドスローで航行する理由は他人の安全だけではない。他艇が急に動き出した時に直ぐにアスターンを掛け止まることができるし、事故を自ら防ぐことができるかもしれない。船は自動車のように急には止まれない、慎重に極微速で走ることで、止まることも避けることもし易くなる。
つまり、デッドスローで航行することは、自艇を事故から防ぐ意味もある。
ハーバーやマリーナのルールで〇ノット以下で航行なんて書かれていたりするが、そんなことは言われなくてもデッドスローで航行するのが本物のシーマンだと思う。

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楽しむ場所だからこそ、他人への気遣いが重要

安全の次に大切なことと言えば、ヨットハーバーやマリーナは楽しむための場所である筈。しかし、自分だけが楽しければ良いというものではない。多くの利用者は、誰が、どの船が迷惑者だということを知っている。気が付いていないのは自分だけだったりする。シーマンたるもの他人の楽しみまで気遣って一人前だという事が言える。
楽しみ方はいろいろあるけれど、他人を気遣うと言えば環境面ではないかと思う。

マストにあたるロープの音

クルーザー乗りの楽しみと言えば、自艇を別荘代わりに使い、船に泊まることではないだろうか。中には、殆ど船に住んでいるという人まで居る。そんな人たちの楽しみを台無しにするのが騒音だ。なかでも強風時にヨットのマストに叩きつけられるロープの音は、まるで近所でバケツを誰かが精一杯叩いているのと同じような不快感がある。
殆どの場合、メインハリヤード又はマストの外側に沿って張られているロープ類が風になびいてマストに叩きつけられる。これを防ぐのは簡単なことで、メインハリヤードはセールから切り離し、デッキの固定できる場所にマストから離して固定しテンションをかけておけば良い。とにかくマストに沿っていなければよいだけで、簡単に防ぐことができる。また、スピンハリヤードやレイジージャックのラインがパタパタとマストを叩くこともある。スピンハリヤードの場合には、スタンディングリギンの外側を通してライフラインに留めておくなど、メインハリヤードの対策と同じようにしても良い。レイジージャックのラインの場合にはテンションが掛かっておらず緩んでいるとバタバタするのでテンションをきつめに掛けるか、左右のラインをマストの前の部分でひとまとめにするように雑策などで縛っておくとバタつきが無くなる。
ハリヤードやロープ類が夜の強風でバタバタしているのは、大体船に泊まらない人の船に多い。しかし、自分が泊まらないからと言って、何もしないのは近所迷惑というものだ。是非、気遣ってバタつかないように十分に対策しておくべきだ。

桟橋で釣りはしない

ヨットハーバーやマリーナ内の桟橋や係留した自艇から釣り糸を垂れるのは、釣り好きの人にはたまらない楽しみかもしれない。しかし、釣り糸が切れたり、流してしまったりすること想像してみて欲しい。誰かの船のプロペラ(スクリュー)やラダーなどに絡まってしまった時、これは誰の責任なんだろう? そして誰が絡みついた糸を外すんだろう? それを考え始めたら僕は夜も眠れなくなる。僕は絶対にマリーナやヨットハーバー内では釣りはしない。同じ船を持つ者なら誰でも容易に想像できることだと思う。

施設は綺麗に気持ちよく使う

マリーナやヨットハーバーは一種のコミュニティーなので、そこでは誰もが綺麗に気持ちよく居たい。トイレやシャワールーム、シンクなどの共同施設があるが、これらを綺麗に使うことはあたりまえのことだが、意外にゲストが使うと荒れている場合が多い。オーナーはゲストを招いたら、最低限度のルールやマナーはゲストに徹底すべきだ。
また、オーナー同士は直接付き合いが無い人でも相手に挨拶されれば一応挨拶を返すものだが、ゲストが見ず知らずの人から挨拶されると何も返してこないことが多い。しかし、マリーナやヨットハーバーは海が好きで船が好きで、その愛好家が集まっている場所、オーナーはゲストに対して他の船の人から挨拶されるかもしれないから、そんなときには挨拶くらいはしてねってひとこと言っておくだけで、ゲストも郷に入れば郷に従えという風になるものだと思う。

最後に

今回の話は、いろんなヨットマンの方々や自分自身がこれは危ないなって思ったこと、さらには古いシーマンシップに関する書物などからピックアップしてみました。日常生活でもマナーや他人に対する気遣いは必要になるけれど、海の上では甘えは禁物。マナーや気遣いがないことで、人を死に至らしめることだってあり得る。しかし、マナーや気遣いを互いにもって楽しめば、それは互いに危険を排除し合うこともなるし、補い合うことにもつながる。マリーナやヨットハーバーは、海のようで海でなく、陸のようで陸でない、海との接点になる場所なだけに、どうしても海上よりも気が緩んでしまいがちな面もある。だからこそ、ルールに無くてもマナーや気遣いは重要になるのだと思います。

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