ヨットと聞くと船酔いを心配する人は少なくないようで、我が家も妻は最初の頃は船酔いを心配していました。それに対して僕はと言えば、船酔いを経験したことはありますが、それは何十年も前の幼少期のこと、僕はそれから一度も船酔いになったことはありません。ダイビングをやっていた頃に伊豆七島の神津島沖にある銭州というポイントにボートダイビングでマグロ漁船に乗って遠征した時のこと、小笠原沖に発生した台風が北上を始めたことで帰りの海は大荒れで5メートル前後の大波の中、一緒に行ったガイドダイバーの他、同行したメンバーは全員船酔いでダウン… 船長の他に僕だけがそんな帰りの船の中で全く平気だったほど、僕は船酔いとは無縁です。妻はと言えば、最初の頃は事前に船酔い対策をして乗るようにしていたので、これまで激しい船酔いに襲われたことは一度もありません。今では殆ど船酔いの心配は無くなったようです。しかし、世界一周単独ヨットレースで有名なヨット冒険家の白石康次郎さんでもレース最初の1週間は船酔いをするそうですから、どんなに多くヨットに乗っていて強靭な体力の持ち主であっても船酔いが起きてしまうことがあるので、体質なのか心理的影響なのかは人により様々なんだなって思います。

船酔い対処法

とはいえ、船酔いは諸々対策することで多くの人は防ぐことが出来たり、乗り越えることが出来るようです。
そこで、今回はヨットを楽しむための『船酔い対策』について書いてみたいと思います。

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船酔いが起きるメカニズム

人は起きている時には無意識に姿勢を保つ能力があります。これは、無意識に人の体の各部に姿勢の変化を感じ取るセンサーの役目をしている器官(目や耳の三半規管、全身の筋肉や皮膚など)からの情報が脳に伝達されることで姿勢を把握しています。そして、それらの情報から姿勢を保つための命令を体の各部に送り出す作業を脳はしています。この情報収集~処理~命令の一連の姿勢制御プログラムは私たちのDNAや脳に入っているわけですが、元々は主に陸上生活をしている人類は海上と言う特殊な環境における姿勢制御情報をあまり持っておらず、人によって対応できる情報量に個人差があるのです。
こうしたことから、一般生活では普通に問題なく機能しているこれら一連の処理が、船上では陸上で起きないような予測外の動きをすることから、脳がその動きに対して対応しきれなくなる(脳に送られてくる情報を正しく処理しきれなくなる)ことで様々な間違った命令を体に発してしまうのです。これが船酔いの兆候や症状として出てくるわけです。脳に送られてくる情報には、心理的な影響による情報もあり、体調がおかしい時に心理的な情報負荷が加わると、これらの過大な情報を処理しきれなくなり、一気に船酔いが重症化するのです。高いストレスを感じて吐き気がするのも同じようなメカニズムからです。

船酔いをしている人が、長時間船に乗っていると徐々にその症状が改善されてくるのは、元々持っている姿勢制御プログラムを脳が徐々に補正し、入ってくる情報を正しく処理できるようになり体に正しい命令を出し始めるからです。心理的にも時間の経過と共に体が楽になってくることで心理的な負荷も減ることで回復してゆきます。人間って本当に凄いですね。

船酔いになるプロセスを例え話にすると…

これをイメージし易くするために例え話にしてみると、『普段通りの仕事量を順調にこなしていたのに、あちこちでいろいろな仕事上のトラブルが起きたり、いろんな人から頼まれごとをしてしまい、処理しきれなくなってパニックに陥り正常な判断が出来なくなってミスを連発してしまうという状態が「船酔いの重症化した状態」です。しかし、時間の経過と共に徐々に整理がついてきて仕事にも目処が立ち始めると、以前のように冷静さを取り戻しミスなくこなせるようになってくる、つまり『長時間、船に乗り続けていると船酔いを克服したような状態になる』という感じです。

つまり、船酔いの対処は脳が処理しきれなくなる(パニック)にならないようにすること、なってしまったらパニックを如何に沈静化するかという事を考えれば良いということになります。

船酔いの兆候から発症の初期段階

船酔いの兆候(船酔いになりそうだというシグナル)は人それぞれですが、主に「めまいがする」「生あくびが出るようになる」「生唾が出る」などです。
発症の初期段階は「頭痛がする」「顔面が蒼白になる」「冷や汗が出る」「吐き気がする」「胃の不快感が起きる」「手足などが冷たくなる」などです。

この兆候が出始めるところから初期段階の間で、できるだけ早く対処することで、症状の悪化を防ぐ対策をとることも可能になります。重症化する前に早い段階で対処アクションを起こすようにしましょう。

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船酔いの対処法

対処法には、乗船前にできるものと乗船中(兆候が出る前後や症状が出てから)できるものがあります。船酔いが重症化してしまってからでは遅いので、できるだけできることから先にしておくことで船酔いを防ぐことが出来る可能性が高まります。

乗船前の対処法

事前にできる対処のポイントは、体調を良い状態にキープして乗船することです。
風邪をひいたり体調不良の時(病気のとき)や通常の体調ではないとき(過労状態のときなど)には当然のことですが乗船するのを控えるようにするべきです。健康な状態で普段通りの体調でも以下の項目は守るようにすることで船酔いを防ぐ可能性を高めます。

1. 乗船前には睡眠を十分にとる

乗る前の日は自分がいつも必要な睡眠時間はしっかり取っておくようにします。3時間でも十分な睡眠をとれる人もいれば、8時間以上寝ないと睡眠不足だという人もいますので、そこは個々の適正な睡眠時間はきっちりととるようにします。
睡眠不足では陸上でもめまいが起きたり、体調が優れない状態となり、脳はその状態を補おうとしているにも関わらず、更に船に乗って負荷が掛かってしまうことになります。これが船酔いにつながるのです。普段は船酔いにならない人でも、船酔いになってしまうことも多くあるので、睡眠は重要です。

2. 空腹な状態や食べ過ぎの状態にはしない

空腹や食べ過ぎは何れも胃から不快感が出てしまいます。これにより船酔いではない不快感により船酔いを誘発してしまいます。船に乗ると気持ち悪くなるからと言って食べないと言うのは良くありません。また、食べ過ぎもそもそも胃に大きな負担が掛かっていまい、胃の不快感をから船酔いを誘発します。何れの場合にも平常時とは異なる状態になるので船酔いを招いてしまうことになるのです。

3. 飲酒や二日酔い状態にはしない

飲酒により様々な感覚がマヒすると、脳は更にそれらの情報も処理しなければならなくなり、処理できる限界を超えます。そうすると船酔いになってしまいます。
逆に泥酔していれば、何が何だかわからないという事で船酔いにはならないかもしれませんが、飲みすぎで気分がわるくなり結局同じような状態を招くことになります。

4. 楽な格好(服装)で乗船する

締め付けの強いものや体に合っていない衣類などは、正常な情報が脳に送られなくなるので、船酔いになり易くなります。ヨットに乗る場合には、動き易い格好もしておく必要がありますから、スポーツするような楽な格好を心掛けるべきです。

5. 普段からいろいろな運動をする

船酔いする人の特徴に、普段はあまり体を動かさない大人しい人が多い傾向にあります。これは、身体がいろいろな動きに慣れていないことから、船に乗ることで大量の運動情報が脳に一気に伝わってしまいパニックを起こすからです。できれば普段からいろいろな運動をしておくことは船酔い対策になります。いろいろな運動はスポーツの種目と言う意味ではなく、身体をいろいろな姿勢を変えて動かすことです。
また、乗船直前にもストレッチや準備体操のような動きをしておくと、安静な状態からいきなり乗るよりも船酔いが起きにくい傾向にあります。つまり、脳を普段から慣らしておくことが予防につながるという事です。

乗船中の対処法

乗船中に兆候や症状が起きてしまったら、最も良い解決法は船から降りることですが、何処かに出掛けてしまって簡単には港に行けそうにない場合や、港まで時間が掛かる場合には、船上で対処する必要があります。
船酔いで最も大きな要因は船酔いのメカニズムでも説明しましたが、日常と異なる運動情報による脳のパニックです。ここに心理的なパニックが加わることで、更に船酔いを加速化させるのです。

6. 気持ちを静める

まず、兆候や症状が出る前にできることは、気持ちを静めることです。楽しい会話や綺麗な海の風景などを見ながら気持ちを静め、気持ちを他に向けることです。
心理的な不安感(船酔いになるかもと言う気持ちや、過去の船酔いによるトラウマ)は、それ自体が脳への普段と違った情報負荷となり、更にそこに普段の生活と異なる運動情報による負荷が加わることで船酔いを加速化させます。つまり、いつもと同じような平常心を保つことは、脳への負荷を減らし、船酔いの予防策となるわけです。

7. ヨットの動きに合わせて体を動かす

視覚的情報と運動情報の違いが、船酔いにさせる大きな要因となるので、船の動きに体の動きを合わせることで、視覚的情報と運動情報が一致し、脳が混乱を起こすのを低減します。船が右に傾けば、身体を積極的に反対側に動かし並行を保ったり、波を越えてバウンドするような時には、身体を自分から動かしてバウンドするような動作をすることで、自分の意思で動くことが脳の混乱を防ぎます。そうするためには、船の動きに対して受け身になるのではなく、海面や船の舳先(バウ側)を見て、船がどのように動くかを視覚的に観察して、それに合わせるように体を動かします。船が揺れるからと言って、体を突っり床の方を向いたりして受け身な状態だと、脳が動きを予測できず、身体も不必要に振り回されるので、船酔いになるのを加速化させてしまうことになります。

8. 一点を凝視するようなことを避ける

ヨットが走っている時には、スマホや地図、計器類などを長時間見たり、気分が悪くなると顔御伏せてデッキの床を長時間凝視する人がいますが、そのようなことは極力避けます。これも、船の動きを視覚的に予測できなくなることから、前項目の 7. で説明したことと同じく、受け身な状態で体が振り回されてしまう状態が起きて、船酔いを加速化させてしまうことになります。

9. 舵をとらせる

ヨット上で船酔いを予防するのに最も効果があるのが、舵をとらせることです。実は、乗り物酔いするという人でも、自分で運転していると酔わないという人は意外と多いのです。これは自分で周囲の状況を判断して運転することで、乗り物の挙動を事前に認識することができるからです。それと同じで舵をとることで舵取りに集中することができ、船の挙動も把握することができ。それに合わせて体を動かしたり、遠くを見て進路を保つなどで先に上げたような 7.や8. を自然に行うことができるからです。心理的にも舵をとっている緊張感が気持ちを船酔いに向かわせない効果もあります。

船酔いになってしまった時の対処法

船酔いになってしまっても重症の船酔いになってしまわないように対処すべきです。また、船酔いになってしまってもヨットはパワーボートのように高速で港に戻ることはできないので、船上で何とかやり過ごしてゆかなければなりません。

10. デッキの最後尾に座らせる

船酔いになってしまったら他の人に連鎖しないように、デッキの最後尾(スターン側)に座らせて水のボトルを持たせ、船の動きが最もよく見える位置に移動させます。嘔吐する場合には海に直接吐かせるようにします。水を持たせる意味は、嘔吐した場合に口の中を濯ぐためと、嘔吐するものが無くなってしまうと、胃や食道にダメージを与えかねないので、水を飲ませるためです。この時に、炭酸飲料や柑橘類などのジュースは絶対に飲ませないようにしましょう。炭酸飲料も柑橘類の飲料も胃に刺激を与えてしまい、更に悪化させるので船酔いの人が出る事が想定される場合には、水の入ったペットボトルは準備しておくと良いです。また、かなり嘔吐を繰り返した後には、できれば経口補水液などがあると脱水症を防ぐと共に胃を落ち着かせる効果もあります。

11. 酔い止めを飲む

船酔いになりそうな人は乗船前から酔い止めを飲んでおいた方が良いのですが、飲まずに乗船して船酔いの症状が出てしまったら、できるだけ早めに飲むようにすると効果が期待できます。実際に体に本来の効果が出るのは飲んでから30分から1時間後になるので乗船前に飲むことを推奨するわけです。しかし、船酔いになってから飲んでも心理的な効果で重症化することを防いだり、重症化している場合にも心理的な軽減効果が期待できるので、船酔いになったらとにかく飲むことです。
酔い止め薬には、鎮静・鎮吐成分が配合されており、吐き気・めまい・頭痛などの乗り物酔いに起きる諸症状を緩和します。他の薬との併用は症状を悪化させる可能性があるので、他の薬を飲んでいる時には酔い止めは飲むことが出来ません。薬が嫌な人もいますので、そんな場合には生姜が効果があります。生姜にはジンゲロールやショウガオールという成分が含まれていて、ジンゲロールは吐き気などに効果があり、ショウガオールが胃を整える効果があります。生姜パウダーなどを生姜湯にしたり、水に溶かして飲むことでも効果が期待できます。手軽なものでは、アメリカのクルーズ船などでは生姜成分100%の完全オーガニックな酔い止めとして“Ginger Root”と言うサプリメントを配ったりしています。(リンクを張っておきますので、興味のある方はクリックしてみてください。)

最後に…

船酔いは子供の頃に重症化した経験をしてしまうと、その経験がトラウマのようになってしまい、あらゆる船に乗る時に船酔いを連想してしまうようになります。しかし、幼少期には大人に比べて胃腸が弱く、更にいろいろな運動経験が少ないことで船の揺れに対応できないことで酷い船酔いになってしまうのが大きな要因で、大人になると私のように全く船酔いしなくなってしまうという人も居ます。しかし、船を避けるようにしていると、大人になってトラウマが大きくなり、身体は問題なくても心理的に船酔いを起こしてしまうという場合もあります。できれば、そのようなことにならないためには、ニュートラルな思考で船に乗って冷静に自分を見つめてみると、意外に「あれっ?大丈夫だ!」っていうこともあると思います。

是非、乗船前の対処法をきちんと守って、ヨットを楽しんで頂きたいと思います。

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