船の世界のにおける温室効果ガスの排出量削減の取り組みについては以前の記事「帆船でヨットを運ぶ時代がそこまで来た」でご紹介しましたが、地球が抱える環境問題は「温室効果ガス問題」だけではなく海では「海洋プラスチック汚染問題」も非常に深刻な状態です。

海を漂流または漂着する海洋ゴミは陸地から川などを通じて海に流出しています。その中のおよそ8割はプラスチック系のゴミです。プラスチックは生分解(バクテリアや菌類、その他の生物によって無機物にまで分解)されるスピードが極端に遅いことから多くの生物が飲み込むことで影響を与え、海洋生物の生態系に影響が出始めています。更にプラスチックごみは太陽光や波などの影響でマイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチック片に粉砕されることで全海洋生物の25%以上が自然にこれを呑み込んでいるという調査結果まで出ています。既に海の表面に見えているプラスチックゴミは1%未満となっており、その殆どがマイクロプラスチックとなって水中に攪拌され浮遊しているそうです。
2015年の調査では既に全世界の海に存在するプラスチック系ゴミの総量は1億5000万トンを超え、2016年の調査では毎年少なくても800万トンが新たに陸から海に流入しているそうです。800万トンを例えると、ジャンボジェット機を毎年5万機、海に捨てているのと同じと言えます。WWF資料より)

さて今回は、海洋プラスチックごみ汚染の問題に警鐘を鳴らすキャンペーン活動やワークショップならびに海洋汚染が進む海域の実態調査を目的に2017年から2021年掛けての5年間に渡り活動を続ける “THE RACE FOR WATER ODYSSEY 2017-2021” で使われている再生可能エネルギーだけで世界中を航海する巨大カタマランヨットをご紹介したいと思います。

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再生可能エネルギーのみで世界を航海するヨット

この環境保全活動プロジェクトに用いられるヨットは非常にユニークです。全長35メートル、全幅26メートル、総重量100トンのカタマランヨットのエネルギー源は3つで、全て再生可能エネルギーを使用しており、航行には電気と風を用いるため、化石燃料は一切使用されません。また、RACE FOR WATERで使われるエネルギー技術は既にどれも商用化され確立された技術です。

RACE FOR WATER

1. 太陽エネルギー

船の写真を見て頂ければ一目瞭然、船上に隙間なく貼られた512㎡のソーラーパネルにより発電された電気を、左右両方のハルに収めた重量にして8トン分のリチウムイオンバッテリーに蓄電します。満充電状態で36時間(最高速力8ノット、巡航速力5ノット)航行できる蓄電量にあたり、晴れた日の昼間に充電を行い夜間の航行をバッテリーで賄います。

ソーラーエネルギー

2. 風エネルギー

これも写真で一目瞭然、カイトウイング(Sky Sails)による推進力を用いてセーリングします。従来型のマストに取付けされたセイル(帆)の代わりに大型の牽引カイトウイングを用い、防水高強度繊維で作られたカイトの大きさは40㎡で、およそ100mから300mの高度を飛行させます。カイトと船を繫ぐ牽引ロープは金属ワイヤーではなく軽量かつ高強度のダイニーマ繊維ロープを用いています。カイトのセッティング(準備から展開、上昇の完了まで)に10分から20分を要します。航行中のカイトの制御は完全自動化されており風の強さにもよりますが、この100トンの船を5ノットから8ノットの速力で航行させることができるそうです。

3. 水素エネルギー

3つ目の再生可能エネルギーは、2台の燃料電池(フューエルセル)用の水素です。水素はソーラーパネルで発電した電気を用いて海水を汲み上げ、ろ過装置により淡水化し、その水を用いて電解槽で水素を生成します。水素は350バールに圧縮し25本のカーボンファイバータンクに貯蔵されます。2台の燃料電池(30Kw)を用いて電気に変換して使用します。この変換時には蒸気と熱のみを生成するので温室効果ガスの発生も無く毒性もありません。この水素量で6日分の航行が可能です。

エネルギーシステム

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“RACE FOR WATER” とは?

“RACE FOR WATER” は、2010年に設立されたスイスに本拠を置く財団。代表のマルコ・シメオニ氏(Marco Simeoni)は、スイス三大サービスプロバイダーの1つであるIT企業の設立者で、更に個人的には世界一周レースを計画していたセーラーです。財団はレースのために設立されたものですが、2015年に世界一周レースのために建造したトリマランを使って世界一周セーリングを実施した際に、海洋ゴミ汚染や海洋プラスチックごみの実態を目の当たりにし、海洋汚染の状況がかなり深刻な状態であることに気付かされた同氏は 財団内に環境保全団体を自ら作り、海洋ゴミ汚染の深刻な状況を世界に発信すること、更にその状況を詳しく確認調査するために “THE RACE FOR WATER ODYSSEY 2017-2021” を開始したわけです。この取り組みには高級時計メーカーのブレゲ(Breguet)も同氏の考えに賛同しスポンサードすることで活動を強力に支援しています。

DISCOVER THE ODYSSEY 2015

2015年に世界一周を試みた際には、5つのゴミの渦の中にある島のビーチに立ち寄り、300日間で32,000マイル17箇所に寄港し、世界中の30箇所でサンプリング調査をい、15420個の漂流しているゴミと192,250のマイクロプラスチックなどを持ち帰りました。

odyssey 2015

ODYSSEY 2017-2021

彼は2015年に目の当たりにした経験から、既に海に流れ出しマイクロプラスチックとなって水中に浮遊しているゴミの除去は非常に難しいこと悟ると同時に、これ以上に海へゴミが流れ出さないようにすることこそが非常に重要であるということを知らせる必要があることに気付きます。そこで何もせずには居られなくなり、直ぐに行動を起こします。
それが “ODYSSEY 2017-2021” です。
この世界を再び巡る旅は、5年間を掛けて38箇所に寄港を予定しており、その期間中に10の科学的な調査等のプログラムの実施、50,000人の子供たちや世界中の政府関係者や要人などにRace For Waterに乗船してもらい海洋ゴミ汚染の実態や危機的状況を認識させたいとしています。そしてこれ以上に陸から海へのゴミ流出を食い止める施策が必要であることを喚起する目的で、このオデッセイ(長い冒険)を2017年から行っています。

odyssey 2017-2021

また、この取り組みでは、再生可能エネルギーだけで5年に渡る世界航海が可能なことも実証しようとしており、世界を取り巻く総合的な環境問題に一石を投じると共に警鐘を鳴らす役割も担っています。

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最後に…「2020年には日本にも”R4W”がやってくる!」

100%再生可能エネルギーのみで航海できる船として非常に興味深いだけでなく、海のみならず地球規模の環境問題に正面から警鐘を鳴らす役割を自ら担って取り組んでいる”RACE FOR WATER (R4W)” の存在には正直驚きました。また、海の無い国であるスイスの財団がこのことに真剣に取り組んでいるといると言うことに目を向けるべきです。周囲を海に囲まれている日本は世界第3位の経済大国であり海洋汚染ゴミの排出量も世界トップクラスです。しかし、残念ながら政府による具体的な施策は殆ど取られておらず、更に最近の台風や豪雨の影響により河川から流れ出すゴミの量は更に増えています。これに日本もストップをかける国としての取り組みが必要ではないかと、今回の記事を書いていて痛切に考えさせられました。

R4W

2020年の東京オリンピックに合わせて “RACE FOR WATER” が寄港を予定しているようです。セーリング競技が行われる江の島周辺で是非ともこの姿を現しデモンストレーションを繰り広げ、横浜や東京などでプレゼンテーションを繰り広げてくれることを期待したいと思います。

“The Race for Water Foundation” HOMEPAGE にリンクしています。是非一度はご覧になってみてください。

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