前回の「ヨット用語に戸惑う」では、風に対して向かう方向で帆走する名称が異なることを説明しました。これって、セーリングの時にこれから行こうとする行き先と風向きで、どう帆走するかを決める時に言うわけですが、実際のセーリングの時には「クローズホールドでとりあえず上るか」なんて言ったり、「アビームで走るか」(ビームリーチでは走るか)とか、そんな感じで言うわけです。

しかし、そのままずっと同じ進行方向で走り続けることはなかなかできないもので、ある時は漁をしている漁船や、釣りをして止まっている釣り船に出会ったり、フェリーや貨物船と交差したり、障害物があったり、風向きが変わったりと、自分の行きたい方向に延々真っ直ぐに進み続けることはなかなかできません。そんな時、パワーボートなら「右からかわそう」とか、「左に逃げて行こう」なんて言って舵を切るだけの事なんですが、ヨットだと進路を変えると言う事は、舵を切ると共に帆の出し方も変えなければならないわけです。

それって何故でしょうか?

それは前回の話を覚えていれば解ることなんですが、舵を切って船の向きが変わるとそれに連れて風向きも変わるからですね。

この船の進行方向を変える時に、ヨットでは独特な表現方法でヨットクルーは曲がる方向と次にどちらに向いて走るのかを情報共有するわけです。

そこで今回は、その走る方向を変えるときに使う言葉についてお話したいと思います。

行き先が風上にある時の方向転換 「タッキング」

目的地が風上方向にある時の最短距離をセーリングで走る方法が「クローズホールド」ですが、このクローズホールドは方向転換を行わないと、どんどん目的地から離れて行ってしまいます。そこで、目的地に向かうために方向転換をジグザグに繰り返して風上へ向かってゆくわけですが、このジグザグに進むときの方向転換を「タッキング」”tacking” と言います。日本では「タックする」と言い、スキッパーがクルーに号令をかける時には「タック」と言います。

タッキング

タックする “tacking” とは

クローズホールドで帆走しているときに、船の右舷側(スターボード)から風を受けることを「スターボードタック」、左舷側から風を受けることを「ポートタック」と言います。タック “tack” は、「固く結ぶ、固定する」というような意味があり、右舷から受ける風で帆を固定するという意味から「スターボードタック」と言うようになり、その状態で帆走しているのを進路変更するという意味で「タックを変える」(風をポート側から受けるポートタックに変えるという)ことなので、これを「タックする」”tacking” というわけです。
※スターボードタック、ポートタックに関する詳細は、「ヨット用語に戸惑う ~スターボードタック艇優先の理由解明編~」の中の「スターボードタック、ポートタックとは」をご参照ください。

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追い風での帆走時の方向転換「ジャイビング」

ブロードリーチで帆走している時に、タックを変える(風の受ける側を左右変える)程の方向転換をすることを「ジャイビング」”gybing”又は”jibing” と言います。日本では「ジャイブする」と言い、スキッパーがクルーに号令をかける時には「ジャイブ」と言います。

ジャイブ

ジャイブする ”gybing”

追い風でのセーリングには、真後ろからの風を受けて風下へ真っ直ぐ帆走する方法があります。しかし、真後ろからの風での帆走は非常に繊細な操船技術が必要になるため、大抵の場合には追風でもやや何れかのタックから風を受けて安定した追風帆走ができるようにします。これを「リーチング」ちと言います。追風帆走時には、セイルは横に張り出した状態になるので、方向転換をするとセイルを反対側に 振り回して 張り出すことになります。この振り回すという意味のオランダ語 “gijpen”が訛って”gybe”「ジャイブ」となり、追風帆走で方向転換することを「ジャイブ」と言うようになったと言われています。では、何を振り回すのかと言えば、これはセイル(帆)なんですが現代のヨットではジャイブの際にメインセイルのブームが大きく反対側に振り出されます。まさにこれが「ジャイブ」ですね。

危険なワイルドジャイブ

追い風帆走で最も気をつけなければならないのが、ワイルドジャイブです。追風帆走時に急に大きく舵を内側に切ってしまうと、セールが反対側に移ろうとして急激に大きく振れます。同時にメインセイルのブームは元あった位置から反対側に急激に振れます。これをワイルドジャイブと言います。勢いが付いたブームが反対側まで一気に振れるので、大きな力がメインシートやブロック(滑車)などに掛かり、壊れてしまう事もあります。ジャイブの際には急な進路変更はせず、ゆっくりと風の向きが変わるように徐々に進路を変えて行きます。また、ワイルドジャイブが起きる原因には、急な進路変更だけでなく、追風だと後ろから波を受けてしまいます。波に対して艇の向きがやや斜めだと波に押されて艇が波に沿うような角度まで進路を変えてしまおうとするので、それを抑えるために舵を逆に切ります。この逆に舵を切った時に切り過ぎるとワイルドジャイブが起きてしまうのです。風が強く波も高い時の追風帆走の舵取りは注意が必要になります。

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風上側へ進路を変える「ラフィング」

横から風を受けて帆走しているときに、風上側に進路を変えることを「ラッフィング」”luffing” と言います。日本では「ラフする」と言い、風上に行きたい時に「ラフしよう」なんて言います。

ラッフィングは、そのまま舵を切り続けるとやがて真正面からの風に変りセイルに風が入らなくなります。そこから更に舵を切ったままにするとタッキングし風がセイルに入って風上向けに帆走し始めます。

ラッフィング

風下側へ進路を変える「ベアリング」

横から風を受けて帆走している時に、風下側へ進路を変えることを「ベアリング」”bearing” と言います。日本では「ベアする」と言い、風下に行きたい時に「ベアしよう」なんて言います。

ベア―リングは、そのまま舵を切り続けるとやがてジャイブすることになります。

ベアリング

最後に…

「タック」「ジャイブ」「ラフ」「ベア」の4つは、海上でどちらに進むかを表現する大切な用語です。基本的な考え方は、 風に対してどうしたいか ということです。

「クローズホールド」で帆走していて、行く手に障害物があった場合、「タックする」と言う選択肢以外にも、「ベア―する」と言う考え方もあります。また、「ブロードリーチ」で帆走していて、「ラフして」「ビームリーチ」で帆走するということもあります。
このように、風に対して「どのようして」から「どういうセーリングをする」というような言い方をセーリング時にはするわけです。
是非、前回の「ヨット用語に戸惑う ~進行方向編~」と併せて、覚えておくようにしましょう。

 

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